今日は半年ぶりにリンクに会える特別な日──だったのに、空模様は生憎の土砂降りで。
二人で城下町を回る予定がなくなってしまったせいなのか、リンクは傍から見ても分かるくらい落ち込んでいた。
無表情を貫くようになったリンクがこんな顔をするのは珍しい。そんなに今日を楽しみにしていてくれたんだ、と思うときゅうんと胸が苦しくなる。
私だって今日が来るのをずっとずっと楽しみにしていた。でも、新しい本が買えなくたって、流行りのお店に行けなくたって、こうやって私の隣にいてくれるだけで嬉しいんだってことをリンクは知らない。
二人で雨宿りするにはちょっと狭い軒下。なのに私より半歩前に立ってくれているのは、少しでも私に雨粒が当たらないようにって気遣ってくれているのだと思う。そのさり気ない優しさがくすぐったくて、ほんのりと頬が赤く染まった。
「風邪ひいちゃうよ」
リンクの優しさに少しでも何か返してあげたくて、ポケットに入れていた一番お気に入りのハンカチを差し出した。
雨はまだ止みそうにない。兵の宿舎に帰るまではこのハンカチで凌いでもらって、また時間があるときに返してもらえれば──
あ、そうだ。
良い口実を思いついてしまった。
リンクに会うための口実。
今ここでハンカチを貸しておけば、調査が終わった後にまた城下町に立ち寄る理由になる。そうすれば、自然な流れでリンクに会いに来れるかもしれない。
リンクは今、一般兵から近衛騎士になるため多忙な日々を送っている。そして私も仕事でハイラル各地を転々とすることが多くなって、会える時間はめっきり減ってしまった。
「会いたい」と言うだけなら簡単だけど、それをせがんでいるように思われたくない。ただでさえ色んな重圧があるリンクの負担になんてなりたくない。その気持ちを拗らせた結果──半年も会えない期間ができてしまったのは痛い結果になってしまったけれど。
でも会いたい気持ちは変わらない。本当は少しでも長く一緒にいたい。だから私は、リンクに会うための理由が欲しかった。貸したものを返してもらう、なんて会うのにうってつけの理由、利用しないはずがない。
そうと決まれば、後はリンクにハンカチを持って帰ってもらうだけ。
でも、多分リンクは──
「これはナズナが使いなよ。オレは平気だから」
やっぱり。言うと思った。
こういう優しさは子供の頃から変わらないなあと嬉しく思うけど、今はこれを渡さないことには始まらないから。
「大丈夫だよ! 予備持ってるから。調査で使うから多めに持ち歩くようにしてるの。だから遠慮なく使って?」
「え、でも」
「いいのいいの! ほら、どうぞ!」
「……じゃあ、使う」
と、畳み掛けるように言いくるめ手渡すことに成功した。ちょっと怪しまれてた気がするけど気にしない気にしない。
「まだ雨止まなそうだし、返すのは後でいいよ。調査終わったら私が取りにくるから」
「……」
「リンク?」
「っ!? わ、分かった」
ハンカチで顔を拭きながらぽーっとしてるリンクを覗き込んだら、何故か大袈裟に動揺していた。ポーカーフェイスが崩れる基準、まだよく分からないなあ。
ふたりきりの時間が終わるまで、あと三十分。
名残惜しさを誤魔化すために、バレないようにほんの少しだけリンクの側に寄った。
狭い軒下での雨宿りも、たまにはいいかもしれない。
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