目の前に落ちてきた、それ。 "君は、彼を嫉んでる?" A .Yes. "君は、彼が欲しい?" A .Yes. "君は、彼をどうしたい?" A .I want to ×××× him. "君は、アレを潰してしまいたい?" A .YES. "なら、君は××××××?" A .――Yes. * ひゅうひゅう、風が楽器のように音を奏で、頬を掠めていく。 「―――」 其処で、風漸華は今夜のことをひとり、その思考をたぎらせていた。 目の前には先ほど活動を終えた躯。ひらり、そして灰となりて在るべき場所へと還っていく。 ――おかしい。 奇妙、とも言おうか。 その夜の暁がこの俯瞰を見渡す。360度。ぐるり。 この満天の下、時間的に不似合いな浅葱がさらさらと闇に梳かされて。 いつまでたっても眠らない彼に、その従者は尋ねた。 「……どうか、したのか」 左から聞こえるので、その方面へと目を向ける。 そこには先程変化を解いたばかりの彼。闇の獅子。 それを確認し、再びこの敷地内を見渡す。 「つかぬことを聞くけれど、今夜は彼らの晩餐会の日だったのかしら」 普段とは打って変わった口調が、なんとも物騒な言葉を吐き出す。 ふと、彼は自身の記憶をさぐりたぐりよせ、その問いに答える。 「――いや、それならば俺に情報が入っているはずだ。」 「それは、信じれるものなの?」 「そうでなければ俺は今、お前の隣になど居ない。」 「……そう。」 たぶん、何かしら原因はわかっている。こんなことなど、すぐわかるはずなのだ。――しかし、肝心の核がわからないのだ。 「屍のことですか。」 「わかっていることを主に言わせる程貴方は無知なの?」 「……否。確かに、今晩は多すぎた」 そう、彼の言うとおり。今夜は月が紅いというわけでもないというのに、 「―――」 ぎりがり。 口の中に広がる鉛のかおり。 またほかに奇怪が広がる感覚も皆無。 嗚呼、なんといじらしい。なんて、腹立だしい。 誰かが、この箱庭を荒らしているなど。 * 垣間聞こえる電子音。光の三原色とやらで作り出された色彩。カタカタと何かを打つ感触。躍る広告。ドットで紡がれた言の葉。冷却焼却一切感情皆無な文章。 その双眸はただ、無機質なディスプレイを目で追う。 小鳥の囀りが唯一非日常ではないと証明してくれる。朝日ももう既に昇りきっている。 「"刃物のようなもので三人死亡、一人重症。通り魔か"」 「―――っ!?」 予想天外の出来事に思わず肩をはねて後ろを振り返る。 「………なんだ、円堂お前か。」 「こんな朝っぱらから何弄ってるかと思えば」 豪炎寺。にこにこと会話を始めるのは、我等がルシーア学院高等部サッカー部主将。トレードマークの橙色をしたバンダナは今はつけておらず、その代わり肩には白いタオルを。そして何時も元気良く跳ねているその両側も今では水分という重みを背負い、へにゃりとただれている。 「朝風呂か」 「ああ、お前も入ったらどーだ?気持ちいいぞ」 「遠慮しとく。」 そう言い逃れ、再びそのディスプレイに目を向ける。感情を帯びていない幾何学的無情な活字がその事件を過程から判明していることを徒然と証明していっている。 内容を簡潔に言えば、とある四人が通り魔らしき者に出遭い殺されたか重体を負ったらしい。しかも傷口を見る限り、刃物。しかも大きくてよく斬れるもの。瞬時、脳裏にとある人物がうつろいだ。 「豪炎寺、これ、」 「何だ」 「……隣街じゃん。」 内容だけでも物騒だというのに、それがましてや自身の身の近くで起こったことに、流石の彼も顔を蒼くする。そう、彼の言うとおりこの通り魔事件は、この学院生が休日などに良く訪れる隣街なのだ。学院近くのバス停からこの山を降りれば直ぐという距離。 「――……ああ、そうか。お前起きるの遅かったな。」 「…ん、まあ…。休みだし」 そうルームメイトが事実を述べる。 「今日は"外出禁止令"が出されてるんだよ。これのせいで」 「"外出禁止"……?」 「ああ。隣街にて殺傷事件が勃発したらしいからな」 目の前に座るのは自身の理事長兼従兄がさらりと、あまりにも物騒なことを言うものなので思わず風丸は硬直した。 背景の澄み渡った青空がそんな非日常かと疑わせる。 「しかし犯人が捕まるのも時間の問題だろう。重症の一人の他に目撃者がいるらしい。」 「………でも、さ」 助手である改がその書類に目を通している。 「―たぶん、重症のひともその、目撃者とかいうひともさ……、」 揺らぐ暁。 視界と言うスクリーンが、不覚にも昨夜の水溜りとこの記憶をリアルに重ねるエフェクトをかける。それが怖くなって思わず目を瞑り、言を喉の奥へと押し込めた。 「ううん、やっぱ何でもない。」 「……大丈夫かイチ。少しふらついているが………――! まさかあの"闇野カゲト"とかいう、」 ひひゃう、エドガーの脳裏にかすかな予感が。そう感じた風丸が慌てて言葉を抑える。 「違う!シャドウは何も関係ない。」 ただちょっと、寝不足なだけだから。 そうやって、微笑む、蒼穹。 その灰色の上着が下の白いTシャツを侵食していく白昼夢を、不覚にもエドガー・バルチナスは見た気がした。 ばたん、 重苦しいドアを閉めれば、思考は不安や恐怖に犯されていく。 風丸はただ、霞うつろいだ泡沫の予感に身震いした。 何がなんだか、ぐちゃぐちゃにごちゃごちゃに。変に混ぜ合わさって、混ぜ合わさるものが不透明すぎて。 "通り魔" 改から聞いた話だと、その三人の命を軽軽しく奪った凶器は刃物だという。 服の中からごそごそと、その手に現るは20cm位の紅色の柄。家紋のように、円形の中に菊の花が咲いている。 つまり、"刃物"。いわば凶器。 最近では身体が慣れたのか、夜の記憶も明確にわかるようになってきた。しかしまだ"慣れている"だけであって、"完全に憶えている"訳ではないのだ。 ――そう、彼が感じているモノ。 犯人が、自分なのではないかという、 ぐるぐり廻り歪む其れ (自分不信) |