「むう。やってくれるね……」

「はむ。そんなセンパイこそ」

「うみゅ。そりゃだって僕だもの」

「んむ。ええ、極度のナルシストですね。」

「まふ。色々沙汰起してくれた君に言われたくはないね」


冷房が効き、甘い匂いが漂う部屋。とある学院のとある棟のとある高級部屋のとある噂部部室。机に広げられた幾つもの甘味類がわしゃわしゃと虚しくもとある人間たちの胃袋に放り込まれていく。因みに今現在はブルーベリーが乗ったタルトが消化されていく途中である。

「喋るか食うかどっちかにしろ。行儀が悪い」

そんな光景にしびれを切らしたのか、少女が一喝する。夏制服の茶色いプリーツが揺れ、胸元には映える赤ネクタイ。そして首周りには、一見マフラータオルに勘違いされそうな一匹の純白雪鼬。普段なら妖ということで一部の人間に見えない鼬は、本日は珍しくその姿を固定化させていた。ふわあ、眠そうにひとつ欠伸をし。

目の前で菓子を貪り言い合いをしているのはどちらとも男子生徒。その証拠に、本来若干成人男性恐怖症な緑でも普通に会話が出来ている。片方は小麦色の肌に翠色の瞳をし、肩をなでる月色の髪。対するもう一人は、一見少女かと信じてしまいそうな外見。金色の長い髪は現在お下げにされ、女子生徒制服の赤色リボンが羽を伸ばす。

「でもねリョク、会話にはタイミングが必要なんだよ。そもそも古来には行儀なんてものは皆無だったしね」

「そうですよセンパイ。いち早くどちらが相手を撃ち負かすには、一秒たりとも無駄せず攻撃することなんですよ」

「何で会って早々腹の探り合いしてんだお前等は」

何でって、そりゃあ。――何となく。
嫌なほど綺麗にハウリングした混声。語尾や口調は若干違うものの、意味は全く同じ。思わず少女は考える事を一瞬放棄した。

かちり、かたり。掻き消されていくその小さな音に目をやる。午後太陽が照り返す夏の頃合。時計の針は静かに円を象っていく。部屋の隅密かに息をする観葉樹が嬉しそうに、窓越しから日光を浴びる。

「――……しかし、珍しく遅いな。」

「まあ、しょうがないよ。風丸君一応生徒会副会長だし、多分聖華祭のことでゴタゴタやってるんじゃない?」

ふう、とハーブティーを啜り溜息をつく照美。ふわり。乾燥され凝縮された、したやかなハーブ
の香りが彼の心を満たす。

「何々、まさか風丸君に"気"があっちゃったりするのそうなのどうなの」

「それは僕が赦しません」

何でそういう話になる。呆れながら頭を掻く。

「そういう君はおアツいね。まさか僕等のトコにのこのこ入ってくるなんて、まるでペンギンが空を飛んだようなものだよ」

「勘違いしないでくださいね。僕はあくまでも風丸先輩のため、こんなケダモノばかり集まった暗雲渦巻く怪しい部活に兼入部したんですよ。まさか、何の考えもなしに僕がこんなところに来るとお思いですか?」

「ふうん、あの件から一層あかく実が熟してきたみたいだね。――今のうちなら引けをとってもらってもかまわないんだよ?」

「ははは、面白いことを言いますね"部長"さん」

お互い一歩も譲らず、まるで虎と鷹。もし、これにエフェクトをつけるとしたなら、定番の"ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ"という効果音と集中線が背景に集まっていることだろう。嗚呼、どうでもよかったですか。

月色少年は本日先程こちら側に入部してきたのだ。因みに陸上部とは兼部らしい。まあ、顧問が現れる時間まで後少しということでは"これから"ということなのだが。
そんな彼と女装少年がこれほどまでにピリピリしているのは、きっと初夏の風揺らぐあの頃のこともあってだろう。今更、と誰かがぼやいてもいいのかもしれない。
どちらにしろ、彼の目的はどうやらとある風らしい。まあ、大概そんなものだろうとは思っていた。ふと、思考がものを告げる。
多分、きっと彼はあの人間の傍に居たいのだろう。あの時だって、それが引き金で物事が動いた。だとしても、その行為が赦されるはずは何処にも見当たらない。もしかすれば、これが彼なりの罪滅ぼしなのかもしれない。終わる事の無い、罰の対価。

(―――)

かくいう目の前の黄色同士は何時まで経っても小競り合いをしている。首元の相棒が欠伸をしてしまうほどの。

ふと、そんな風の姿を思い返してみる。
確かに、彼の存在は少し引っかかる。彼に仕える人間も、苗字など聞いても、その辺りに知識が無い自分にとってはいまいちピンとこない。多分、そういうことなら自分より双子の兄の方がよく知っているのだろう。それでもそのことを持ち掛けないのはきっと、自分が昔と同じとは思いたくないのかもしれない。馬鹿らしい。清々と云う何か。そうだとしても、彼が何かを起したわけでもない。こういうことは一応、基本触れないようにしている。だからというか、行動が遅いと言われがちなのも否定できない。

廻る、少女の考察。巡り巡って、最終的に何もかもを土に埋め、埋葬した。きっと、他人から見ればその行為は罪に近いのかもしれない。それでも、彼女はそうやって此処に行きてきた。息を、してきた。


鳴り止まぬ口論。日付を眺める双眸。
そんな、混沌とした部屋の中。突如ノイズが流れ込み。ノックの音が、その空間に終わりを告げた。
がちゃり。きぃ、と木製のドアが嘲笑った。その板から、顔を出したひとりの人間。
振り向くひとり。見上げるふたり。
そして彼は、初めて訪れるこの場所に笑いかけた。

「今日は。改めて自己紹介をすると、本日現在から此処噂部顧問となりました、"研崎竜一"と申します――以後、宜しくを」

其処には、学院高等部生物学教諭の姿があった。










「しかし、毎度のことながら盛大なものだよなあ……」

ふう、PC作業を終えた少年が呟いた。空色の髪がぱさぱさと揺れる。

「仮にも、神を崇拝する行事だからな。大体こんなものだ」

それに反応した少年が書類をまとめる。ぱさっぱさっ。連呼した紙の束。

窓からは教会が見える。そんな、生徒会室の一角。

「いえい!終わったーっ!」

万歳! そう、本日の業務を終えた人間が約一名、雄たけびを上げる。黄緑色の髪が元気よく跳ねた。

「お疲れ様」

「ねえ会長!もう俺アイス食ってきていい?てかいいよねっ!?」

「ああ、もうお前の仕事は終わったから好きにすればいい緑川」


そう彼が微笑んで言う。そしてそれを待ってましたと言わんばかりに、言葉を聞いた瞬間部屋を飛び出す少年。そんなに物欲しかったのか、笑ながらひとり思い。
ふと、窓の外を見れば絶えぬ少年少女の声。グラウンドには部活動に勤しむ生徒たちも見える。

「……カミサマ、か」

ひとつ、ガラス越しにその存在を検討してみた。





(不確定不透明)




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