「馬鹿かお前っ!」

「すま、んッ…!?」

べちっ。はたく音。残る赤い痣。ひりひりと痛んで。包帯がぐるぐるとふたりをつなげる。
直ぐ傍で白猫がぼやく。

「主人に手当てを要求するなんぞ考えられませんね。」

「だから……別に俺はだいじょ…っ」

「何処がだ!こんな大怪我してきて」

「自業自得ですねクソヤロウ」

「傷口をつつくな白猫っ!」

がやぎゃかややや。
噂部部室奥裏部屋。炊事も出来るシンクも兼ね備えた部屋に、ソファに寝転がる(正しくは寝かされた)シャドウにそれを手当てする風丸。ただそれを傍観するミラのふたり+一匹が其処に居た。
時折、お茶を淹れに入ってくる緑に呆れられながらも、わいわいと騒いでいた。


「元気だねー、うん。」

その隣部室では黄色やら赤やら青の声を聞きながらコーヒーを啜る女装少年がひとり。
隅に飾られている観葉樹が日光を浴び光合成を繰り返す。

「老人みたいな言い草だな」

「んー、いやでも元気じゃない?約一名大怪我した割には」

「それは仕方ないんじゃないか……?」

コトン。照美の前方にて音がし。甘い香りがほのかに。
その隣緑はレモンティーを啜り。亜麻色の髪がふわりと揺らいだ。

「おーっ!此処では珍しいものがあるじゃまいかあっ」

「吉良先生に貰ったんだよ。さっき風丸たちにもあげてきた。」

有名どころのらしいよ。随分貰ったからだってさ。
そう小さなエピソードを聞き流しながら手を進める照美。乗ったフルーツがきらめく。
タルトに差し込まれるフォークがふたりをうつして。通り過ぎる光の線。

差し込む日光はそんな世界を打ちつけて。


「――でもさ、」

そういえば、と軌道を変えることば。

「今回は此処まで例外中の例外だとは思わなかったなあ。ある意味驚きだよ」

ふと、転がす話題。幽霊少女の噺。

「今までそんなような自縛霊なんて見たこと無いよ。そもそも、此処は幽霊なんてあまりいないと思ってたんだけど」

「霊なんて出てこないだけでそこら中に居る。……確かに、今回は珍しいといえば珍しかったけれども」

「普通、ただの自縛霊が神隠しなんて真似をするもなにも、出来ないと思うんだけど。そこんとこリョク自身はどう?」

「でも、霊っていうのは怨念が強いから其処にみえるんだろ。多分今回はそれほど何か思うところがあったっていうところじゃないか」


ふーん、そんなモノ。
緑の言葉に、納得する少年。部屋の奥からの声は未だに聞こえ。

「あ、そうそう。また話し変わるけれども、リョクはいいんだよね。それで」

再び切り口を空ける彼に、少女はふと記憶をめぐらせ。

「だから、いいって言ってるだろ。いちいちわたしのことは気にしなくていいって」

「でも念のため。顧問って結構大切なんだよー?どんな人かでやれることとかも変わってくるし」

「はあ……。よくわからないけれども、というかやることとかやれることって別に無い気がするんだけれども」

「まあ其処は気にしない方向で。で、どんな男の人なっても大丈夫?"こいつなら発狂する!"とか無いよね」

「なーい。というか発狂って何」

「まあ念のためっていう」


そして彼は微笑んだ。




ジョ
(そんな日々を描く)




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