色とりどりに盛る街。ネオンが冷ややかに漆黒の中うつり揺らいで。
がやがやと中央には喧騒という名の静寂。人々の記憶や思想が入り混じり、なんともいえないほどの混沌と化して。
いや、それがこの街。ひとがつどうまち。

そんな場所にも必ずしも裏がある。痛いほどの静けさに包まれた路地裏は言うまでも無く。
たまに溜まっている、憧れを抱き続ける青少年やら、こちらに身を染めた大人たちやらら。否、それこそがこんな街を支えるひとつでもあって。

そして、世界に散らばる、この街に限らず諸処にて存在している、"本当はいてはならないモノ"さえ。



「……っ、やめ…ひあ……っ」

ふるふると震える四肢、胴体、頭蓋骨。その他多数。
地面に転げ落ちるそんな身体。詳しく言えばただの躯。たぶん、あながち間違ってはいないと思う。そう少女はひとり思考を混沌としては闇に融けている路地裏に放り投げ。

「お願いします、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ……!」

恐怖に飲まれパニックになった男の脳内回路はあちらこちらへと飛び交って、無残にはじけては空振りし。わけもわからず口から吐き出るは、自分ですらよくわからない謝罪の言葉をつらつれづれと。
しかし、その翡翠はただ冷ややかに。温度すら無く。
彼女が求めているのは、彼が手に持つそのアタッシュケース。それをとある仕事で奪ってくるよう頼まれたのだ。
それに、幸運なことにこの男は"屍"と呼ばれる異体存在。彼女が此処に居る理由のひとつがたまたまこの人間だと。

「――ッ!!」


そして数秒後、ただ誰かの断末魔が其処に反響しただけで。
残りは、何も無く。












がちゃり、ドアノブを手にかけ開く扉。
先ず視界に入るはデスクトップ。その上には何台かのモニター、そしてキーボードやらパソコン類が。そして端に寄せれらている資料らしきファイルたち。
部屋の両脇には大きな本棚が一組。ずらりと、自分でもよくわからない本やらがぎっしりと詰められて、まるで缶詰のようだとひしひし。そんなことを思えるだけ自分はきっと平和ボケしているのだろう。そう、呆れた思考が頭に響く。

まあ、兎にも角にも結論を言えば、自分が会おうとした人間は此処にはおらず。
しずしずとその彼にはにつかわない机へと歩みを寄せる。そして重く圧し掛かった何冊かのファイルの上から三番目青いファイルを取り出しては、それを開く。すると何十ページ目かに、白い紙と封筒が入っており。


「……ただいまーっす――って、アレ?」

ぱたぱた、がちゃり。新たにこの部屋へと来たのは少年二人組み。見慣れた茶髪が視界によぎる。

「どうやらボヤ用らしい。……ったくあいつも懲りないな」
「しょうがないさ、仕事だからな。まあ俺らから言わせれば時雨、あんたも懲りてないからな」
「は?」

あいつと一緒にするな。というかどういう意味だそれ。
彼は手にもつスーパーの袋を黒いソファに置く。はふっ。ふと、ソファが息を吐いた。
そういえば、はたまた言う口。

「散々アノ人のこと嫌々言ってるくせに毎度毎度お疲れって話」
「……源田、お前勘違いもいいところだぞ。」

すれば、あはははと笑う口。身体が上下左右に揺れて、なんとも楽しそうである。
後ろに突っ立っている水銀髪の少年がそれを冷ややかに見ている。
それをまじまじと見ていれば、気づいたのか「ごめんごめん」と誤りだす彼。目頭に笑い涙が未だに。

「……。いいけれどさ、お前等ケリつけるんならさっさとつけろよ」

ふと、ぴくり。気づいたように肩を跳ねるその姿は一瞬、彼らの本心が垣間見えて。
ふはあ、ひとつ息を零し、卓上にあった林檎を齧る。その赤は哀しいほど鮮やかで。

がちゃり、戸を開け行く。それに続いて、茶色い髪がそれを追う。ひたり、羽根が墜ちて。

ぱっと、センサーに触れればつく玄関の明かり。最新設備の整ったこのマンションがこの建物の中にばら撒いている最新モノのひとつであり。その灯火がふたりを照らす。儚く薄い空色の夏用ロングコートを着る少女と、黒いジャケットを着た少年。

「一応、テストはしにいったぞ」

「知ってる。どうりでお前達の気配がしたからな」

「流石、とも言うべきか。あの人のかたわれな程はあるな」

「あんな奴とは一緒にするな。それにお前等、あいつのこと慕ってるらしいけど、あんまり過ぎるとあいつ調子乗るからな。ただでさえ危険人物だっていうのに」

「そりゃ、佐久間を助けてくれたからな」

そう、笑うひとり。
彼らはれっきとしたルシーア学院高等部生徒のひとりである。しかし、今現在では本来居るべき場所、学院から下った街の自分の双子の兄が住まう住居に身を預けている。それにはまた複雑な問題が絡む様々な理由が在る訳で。取り敢えず、学院側にはあれやこれやと理由を繕って今では一種の通信制となっている。
しかしまあ、こういうお陰になったのもあの理事長の人の良さがあったというのも一理ある。其の前にふたりがふたりとも結構な成績をおさめていた理由もあるが。

とん、ブーツを履く音が小さく反響する。
淡いひかりに灯されたふたりが、ひとつ。

「――源田、」

ぽとり、堕ちた言葉。それは弾け、幻想のように消えていく。

「ずっと、佐久間の傍に居てやれよ」

それ以上でもなく、それ以下でもない言の葉。それが、ばら撒かれて、ビー球は硬く音を打ちつけ音も無く転がっていく。散り散りと、あらぬ方向へ、その色をこの空間に放り投げて。

「あんたに言われなくても、俺はあいつの傍にずっと居るよ。」

そうやってまたこの少年はあどけなさを残した笑みでわらうのだ。
――たとえ、この世界や自分が終わってしまっても。


そしてもうこのマンションには少女はおらず。
また、長い長い夜のつづきを塗り返しては。










そしてふたりは初めて互いの視線を合わせた。
時は戻り、屋根の上紅い月を背後にし。
黄金に輝く星と翡翠に奔る光の影。
その手には、同じく誰かを壊すための刃が紅くなぞりて。

一瞬として大きく感じられたこの"力"。シャドウには、その獣にはすぐ感じ取れた。最早、思考回路をたどることも無く。


あの存在は、きっと――。


其処には月を煌かせた風がおりて。



(さあ、永久に続く永遠を踊りましょう)




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