はたり、 夜中の午前2時。世間で言う丑の刻であり、よくホラー物ではあの世とこの世が混じる頃合い。 「――なーんて」 生憎そんなオカルトじみた事は信じない主義だから、どうってことは無いんだけど。 と、言ってもこの学院の夜が不気味だという事は賛同する。 都心から離れた森に囲まれた此処は、勿論の如く明かりは月と星だけが頼り。百歩譲っても見回りの先生達の懐中電灯。 はたはた、 目が冴えてしまったので、少しの散歩。 仮にも此処に居着いて五年目。 見回り番のルートなんてたかがしれてる! じゃり、気付けば中庭に。 満天の星空とその中央麗しく煌く満月が心を満たす。 こんな景色を見るとやはり都会とは違うと改めて思い知らされる。最初来たばかりの時は此処が同じ国かとも思った程。 と、ひとつの黒い影が。 不審に思い恐る恐る足を、影に近づかせる。 誰だろう、懐中電灯を持っていないから先生とかではない。だったら、生徒なのだろうか。 そう、思考は言うのに。 何故だろう、足は何時ものようにすらすらと動かない。 なのに影ははっきりと浮き彫りになって行く。 近づいてないのに、近づいてくる影。 気付けば足は恐怖でくすむ。 逃げて、声を上げたいのに、口から堕ちるは空っぽな言葉にもならない何か。 翡翠煌く輪廻の瞳に、鋭い怪しい月を映した刀。 「………っひゃ…だ、ゃだ……っ」 ふるふるとその存在を拒む本能。 それでも変わらず規則的な足音。 かつ、かつ、かつ、 一歩、二歩、三歩、 ひとつ、ふたつ、みっつ、 止マラナイ、全テ、ドレモ、 「 」 とある少女の屍は、とある丑の刻に、消え失せた。 少女と月とあおき竜 (アイアムクレイジー) |