風漸華がその刃に触れれば、ぽんっと音を立てそうな勢いで縮まる魔鎌。槍の先のようにひし形となりて、わずか親指サイズまでへと。まるで何か銃の弾みたいだととぼけた思考が云う。
そして、倒れ横たわって眠っているその瞳にこう言うのだった。


「――おやすみなさい。」








その表情は正に子を愛でる聖母のようで。








朝日が、顔を出した。













小鳥の囀り、初夏の風。ぽかぽかと陽気。
水色のカーテンが揺れ、青空が顔を出す。

そんな、日。


「――………ん、」

重い瞼をなんとか開け、広がる風景。
照明、2組のソファー、その間に挟まっている机、議長とかが使ってそうな机、観賞用植物、奥へと続くのか小さなカーテンがかけられてるくぼみ。そして、青空と君。

「……あ、シャドウ…?」

「起きたか」

そう言って覗いてくるは、事実上自分の僕らしき人間で。
むくり、重たい身体を何とか持ち上げ、再び背もたれにもたれ座る。

「あ、起きたんだ」

と、其処に現れたのはどこかで見覚えのある、さらりと流れる金髪とその女子生徒服。しかしこんな容姿でも中身はちゃんと男ということが頭を痛ませる。
そんな彼女ではなく彼は、奥の小さなカーテンの所からひょっこりと出てき、其の手にはカップが。其れをお盆にのせてやってきた。

そして渡されたコーヒー。一応飲めるでしょ?
一応、頷いてその香りと旨味に浸る。香ばしい豆の香りに、喉を通る暖かい少しの苦味。
普通に美味い。

「眠気覚ましには丁度いいでしょ」

そう言ってくる彼。確かに、その言い分は最もで。

「ん、ありがと。……ってあれ、そういえば名前、」

そう、お礼をしようとして肝心なことを思い出す思考。

「ああ、そういえば言って無かったね。うん。僕の名前は」

亜風炉照美。呼ぶときはアフロディか照美でいいよ。

そう笑顔で言う亜風炉照美。苗字は駄目なのかと聞けば、笑顔で何故か身の毛のよだつ声で拒否された。多分、言ったら後先真っ暗ではなく真っ赤なのだろうと冷静に脳裏が告げる。


――ん……?


何か、何かに気付いた。
絶えず朝日はこの部屋を照らす。違う、そういうことじゃない。

かたり、飲みかけのコーヒーが揺れる。その歪んだ姿を写しとり。

あの黄色。神無月。夜中のデキゴトが頭の中、記憶が駆け巡る。それはぐるぐると、ループして。

「――みやさか、宮坂は………?」


手に、肌に残る感触。未だに其れは憶えている。彼の、ぬくもりを。いきていたという温度を。

「大丈夫。あの魔鎌適合者はすやすやと眠ってるよ。勿論自室で」

「あのっ、あの怪我は…っ!?」

「元通り。――大丈夫。風丸君が心配してることは全て直ってるから。」

あの中庭だって跡形も無いしね。
そう、笑顔で。
しかし風丸には、彼がいきていただけで、それだけで良かった。こころが満たされるような感覚がした。
そして安心しきったのか、ぽふり、堕ちる。ベージュのソファーが息を吐く。

と、突如唸る思考。どうやら今日は頭がまだ寝ぼけているようだ。

「此処、何処」

そういえば。何処だ此処。
多分学院内の何処かだとは予想がつくが、一体合切何処だ。とある単語の暴走。
あー、そういえば。言っていなかったと思い出す照美。

「此処、部室」

「……部室?」

「うん。"噂部部室"」

「…………はい…?」

さらりと言ってのける彼。しかし、そんな部活などあっただろうか。というか噂部って一体何だ。
ぐるぐる廻る廻る。頭の中では大疾走中で。

「そんな部活、あったか……?」

「まあ幽霊部だし」

それは部活と呼べるのだろうか。またひとひら、堕ち逝く花弁。

「でも、君達が来るから四人で……あ、もう幽霊部じゃなくなるんだっけ」

そう、指折りで数える彼。

「はっ!? いや別に誰もそんなこと言ってない!言ってないからっ」

「ふざけるな。たかがお前ごときの遊戯にかまってられる暇があるか」

突如反論を放つ主従ふたり。ゆらゆらと、コーヒーの上に堕ちる花弁がまたひとひら。

「……じゃあその治った傷口やらどうするの。それに宮坂君のことだって。あの子、軽く死に掛けだったんだから。特に、後輩のツケは先輩が払うものでしょ?」

ならばそれに相当な対価をもらわないと。にこり、笑み。華が咲き誇り。
可憐なその姿も、今の彼らにとってはまるで悪魔の笑みでしかなく。





つまり、七割強引にその話に決着がついたわけで。





















「あ、今日テストだけど大丈夫なの?お二人さん」

「え、」






(全てが元に戻って)




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