どよんだ空気が箱庭を満たす。 しとしとと雨。厚く圧し掛かる灰色。蛍光灯がやけに明るく感じる。 どす黒い色の言の葉が道を歩く。 「――能力者か」 食堂に設けられた公共電波映像が映し出す、このごろ話題になっているもの。 目の前にいる薫風がしとり。 「……のう、りょくしゃ…?」 彼もこの事件に影響されてか、その瞳は生気がそがれていた。 「俺たちと同じようなもの、といったらわかるか」 「………なんとなく」 そう言って、不意に流れる音声。文字の羅列は音に変わって。 其れは現在の被害状況、庶民への警戒らを訴えていた。 "死亡者11人。犯人の足取りもつかめず" 淡く波紋が弾ける。鼓膜を打ち付けるように、全てを遮断するように振り続ける土砂降り。 「――、なあ」 ふと、外を眺める隻眼。儚く、美しく。 蒼い薔薇がなだれる。 「どうして、こんなに誰かがころされるんだろう。」 「………。」 「だれも、悪くないのに」 どうしてそのひとは、みんなころしてしまうんだろう。けして、しまうのだろう。 ふつふつと静かに湧き上がる何かが彼を支配していく。 「きっと、それが奴の望みなんだろう」 光の加減で黒に染め上がるコーヒー。ふすらおりて。 「……能力者って、皆そうなの?」 眺める、ひとはら。 「様々な奴が居る。」 応える、ふたはら。 「いろいろ、なの」 みっつ流れて、 「しかしこいつは多分底辺のだろう」 し 舞って。 * 豪炎寺修也もそれを見ていた。 ただ、彼の感想としては"彼女が黙っていない"、と。 もう見ることも知る事も無かったであろうと、最低でもここ二年間は思い込んでいた。否、そう願わくばと。 「―――、」 重く落ちるため息。雨に打ち砕かれた。 しかし、よくよく思えば自分はおかしいのだ。殺戮事件等、よくある話ではないか。哀しいともいうが、これが実質。 それでも何故、こうもリンクさせてしまう自分の頭は。 ただひとつ、原因を引き剥がすとすれば、 凶器が"巨大な刃" 大量殺人。此処二年間では最多の。 しかも自分たちが居るすぐそばが事件現場。 「どうしましたか、豪炎寺君」 ふと声がして其処を見抜いた。 この雨になんとも似合ってそうなその風合いの教師。 「――いえ、何も。研崎先生こそどうされたんです」 「少し視聴覚室に用がありまして。」 そして君を見つけたのです。 言っては揺れる深緑の髪。 自分より少し高く、細い体が動いた。 「最近は物騒ですね。殺人鬼到来、とも言われています」 「……ええ、全く持ってそうですね」 冷え込む廊下。それは溶けずの氷のように。 置時計が無機質に時を刻む。秒単位、もしくは分に一時間単位で。 「そういえば、」 切り込む声。 「……いえ、なんでもないです。――それでは。もうすぐ鐘がなりますよ」 そう告げて彼は此処を去っていった。置時計をほっぽいて。 ∵ しんじゅう…? そう。それはあいのさいだいきゅうなの。 そうなの? ええ、そうなの。だからいつのじだいも、ひとつになるひとたちはたえないのよ。 ぐしゃり、 鈍い音が響いた。 純白であるはずのその部屋は、混沌に塗れ、夜景に新たな色を追加した。 がぷり、目の前の男から吐き出すのは自身の垢。 「――、っは……っ、ひとつ、きいて……っひいか…」 息が乱れ狂う。その息るためのひとつである呼吸器官は突き刺され、それを守っていたはずの骨もその重さでずぶずぶと崩れており。 それに身を乗せ、大鎌を突き刺す人間が、ひとり。 暗く全てを遮断した病室では、その口元が動いているかすら解らない。更にフードが犯人の表情をすっぽり影におとす。 少年は何も応えない。 「……ほまえっ、は…"死神"っか…っ」 一秒の心拍回数がどんどんと、川を下っていく。きっと彼の先には長い川があるのだろう。 そして彼は彼の姿を見ることになった、最初で最期の人間であったのだ。 「さあ」 ぐぶずり。 精一杯の力を押し込め、ベットまでもが貫通され、悲鳴をあげる。 その貫通する前、反動でその被りがすっぽりと抜けた。 そしてその瞳を、唇を、色を、髪を、全てを、彼は今まで忘れる事はなかったろう。 翌日、その跡には元々は人間といういきものであった肉の塊が散乱。個々にばら撒かれており。 それらを繋げていたチューブにはいっていた紅も、彼がひとつつくれるほどの量がちゃんとありて。 それを見た看護婦に医師たちは身震いするしかなかったという。 何せ、あの殺人魔がつぶした中でも、ひときは残忍だったというのだから。 来るって狂ってかみさまだって (あしあとけして) |