※fe派生。捏造有



日差し木漏れ日差込む頃。木々は夏の日差しを受け止め、コンクリートはそんなものを照り返しては炎上し。
昼には蝉が啼いては夕暮れ蜩暁見守りて。
それでも、ただその双眸に映る景色は変わらず。日々、世界は変わっているというのに。見慣れては飽きてきた彼にはモノクロパズルと同等の風景。
投げた小石は池の中。波紋を広げ音は弾け。

「――暇そうだな」

「………」

降ってきた言葉を拾い、そして投手の顔を見る。聞き覚えのある声は確かに彼の物であって。消えることなく。

寮のとある廊下。目の前に広がるのは庭。窓が無く、影となっている為そこそこは涼しい此処。こんな真夏日に外に出たい者が居ない為か、日に焼けているベンチには誰の影も無く。対して影に隠れるベンチにはひとり、ふたり。それでもやはり人は少ない。
ただ、池があるだけでもまだ居心地はいいのかもしれない。見るだけで清涼感がある水などは在るだけで人々の心を癒したりもするらしい。
だが、大概は冷房が効いた屋内に避難していることだろう。一応放課後ということもあり、女子の場合は食堂館三階のカフェにでもお茶をしているのだろう。あの場所は外の景色が満遍なく視え、しかもそのガラスやらは強度が強く紫外線を遮るものらしい。何処に需要があるのかは判らないが、暑い日は天井が黒くなり、影を作る。因みに冷暖房ともに完備。

「もうすぐ夏休みだけど、神童さん家の拓人くんはどうするつもり?」

「別に。いつもどおりだ。」

「"いつもどおり"って言っても大体お前此処にいるじゃん。確かにお前が家嫌いなのは今に始まった話じゃないけどさ」

そう言っては壁に背中を預ける彼。少し季節外れの桜色が眼に視えて。

「――"家嫌い"、か」

「そうだろ。だっていっつも帰っても、一週間も経たない内にまた戻ってくるじゃん」

「………」

確かに、周りから見たらそうなのかもしれない。
彼が口にしたことは事実であり、否定することも無い。

両親はとうの昔に他界した。母は病死、父はとある事件に巻き込まれたらしい。元々、母にいたっては病弱だったらしい。
そして、今家に居るのは母の弟である叔父。
つまり、自分がいちいち家にあまり佇まない理由。ひとつめ。


「でも、当主って意味では神童の方が立場上じゃないのか?」

「表向き、はな」

「何か昔あったー?」

「………少し、な」

そもそも、当時10歳にも満たない子供が当主に成るなどおかしな話だ。確かに、いくら両親が他界したと言って、他に代わりはいるだろうに。
しかし、これは今は亡き両親がこの世を去る前に決めたことらしい。どうやら父が死にに逝く前にはもう彼の中では決まっていたらしい。
――まるで、自分が死ぬのを悟っていたように。

そうなれば、幼い当主を支える為必然的にまた誰かが出てくる羽目になる。

「もしかしてさ、拓人」

ふと、くしゃり。シャツが掠れる音がして。
学校指定のネクタイが光に揺らぎ。風は生ぬるく、頬を掠めいき。

「"あの人"のことを教えてくれない叔父さんを憎んでるわけ?」

あ、実質は"あの人たち"と言った方が正当かな。

鯉は池を泳ぎ。
揺らぐ希望は空という何かに溺れては漂い。流れては、髪をかき乱して。
海色に似た眸がこちらを捉える。ただ、静かに。夏の海をなだれて。

「そもそも何でそんなに"あの人"にこだわるんだ。確かに拓人にとっては恩人か何か知らないけれど、だとしても釣り合わない。」


足元影は退行していく。光はコンクリートを浸食して息をして。
とあるふたりを写しだして。夏の昼下がり、夜桜がその蕾を開かして。

8年前、ひとりのこどもはひとりの少女に出会う。自分とは歳がかけ離れた彼女が居た。
あの頃は7歳あたりだったというのに、この記憶だけは鮮明に憶えている。誰かが忘れても、此処に証人がいる。
初めて、当主や名家の人間扱いをしなかったひと。自分を、自分だと認めてくれたひと。

「――確かに、そうかもしれない」

名前も知らないひと。

周りから見たらおかしく思うんだろう。昔一度だけ会った名前も知らない人間を、求めているだなんて。こんなこと、誰かが無難とでも罵声をくれるのだろう。
自分は今まで、きっとこれからも彼女を探し続けるだろう。
それでも、自分にはどうしても彼女に会わないといけない理由がある。


「けれど、俺はあの人に会わなきゃいけないんだ。馬鹿、みたいだろ?こんな広いせかいの中で、手がかりも無くたったひとりを探し出すだなんて。」

鯉が跳ねて、水中めがけて空を飛ぶ。遠い、日の記憶が震えてはこの手に取れることはなくて。
影は形さえもなだらかに。蝉が、鼓膜を突き抜ける。消えていく音を、遮って。
華が咲いては乱れ散り。雫は、知らない誰かの輪郭をなぞって。

それでも、云わないと。そう、彼女に云わないと。そして、返さないといけない。
大事な言葉と形在りし其れ。鎖のように絡みついて。

「会って、云って返さないといけないものがある。」


路上に咲いた華は誰に気づかれることも無く。


「――そっか。じゃあそんな大事な用ならさっさと済まさないとな」

そう笑顔で告げる彼。雫は、花弁に変わって。

「でさ、本題なんだけど。俺、この長期休暇を使って行きたい場所があるんだけどさ、神童もどうかなって。もしかしたらその人の情報も入るかもしれないし」


どうですか、わたくしと共に旅に出ようではありませんか?

お辞儀をしながら差し出された手に笑いながら、そしてこう云うんだ。


(とあるプロローグ)