※イナゴ。性格・口調・設定はザ・みっちーワールド。これの後日談だったりする。顔文字等大量発生。






うー、ごろごろり。
しとしと、ざわざわ。

時折、少し開いたカーテンの隙間から入り込む外灯の白い灯火。そして冷え切った窓に絡みつくは雨音。しとり、したるその水滴がすうと一本細い線を描きて。
さわざわと、静かな雑踏。彼の耳に届いて。
電気もつけず、暗い部屋の寝床には一匹の猫が転がっており。そんな夜目が利いた彼の双眸に映る液晶画面。
最初は眼に辛かったその白い背景だって、気まぐれな黒猫からだと思えばどうでもよくて。

ぶー、ぱしゃぱしゃぱしゃり。
ごそり、むくり。

右手の中に収まっているきみが自身を振動させて。
ぱたり。開けば無論、その名前が打ち込まれており。思わず顔がほころび。




『暇そうだな』
『そーゆータクト姫だって』
『うっさい!姫言うな馬鹿が』
『何々ー(゜∀゜)?もしかするともしかして今日のアレ気にしたりしちゃってー?ww』
『……文面からして悪意しか感じないぞ』
『そうーかなー?wwあれ、拓人ってこーゆう文字系無理だったりしちゃう?』
『それ以前の問題』




一行一行ずつ。
でも、それだけでいい。それだけで、いい。
彼の言葉だと、文字だと、思考というだけで、それでいいんだ。
自分はなによりも彼が好きだ。だから、彼がもつすべて、たった一文字でも愛しくて。
それが特に、彼がわざわざ自分へと何か応えてくれるのならば。

すべてが、だいすき。



『あ、そうそう』
『何だ今度は?』


ふと、ぐるぐると冴える思考。きっと一方通行な感情がいきあたりばったりで。
でも、自分が彼に抱くこの想いは変わることなく。否、逆に加速を続けて。
外では彼と自分をつなぐ夜空。架け橋。
そして見えない電波がふたりを確かにつないでいて。

どっかの誰かが未だに彼へ想いを伝えてない自分に、臆病者と嘲笑う。でも、確かにそれは事実かもしれない。だって伝えていないということは確かなんだから。

ひたり。その指先が物思いに、止まる。窓が土砂降りを映している。外灯の光を浴び、其れはひかりの線となりて。
弾けては、地面に堕ちて。滴る光の雫はその頬をなでおろして。ディスプレイの白光がその眼を刺激して。輪郭を浮き彫りに。
解いた髪がしとり。まだ湿っている其れは顔や首にはりついて。


『今度さ、泊まりに行っていっかな?というか来る?』

『どっちだよ。……まあ、親が承諾してくれるかの問題だけど』

『そっかー、じゃあ決まりってことで。あ!でも久々に拓人の手料理食べたいな〜vv』

『そんな、旨いわけじゃないのに?』

『拓人の料理なら何でもおk(`・ω・)キリッ』

『……お前も相変わらず結構な物好きだよな』

『どーぞご勝手にー(゜ω゜)〜♪というわけで拓人は来週土日こっちってことで』

『は!?何勝手に決めてんだ!というか家族どうするんだよ。邪魔だろ』

『ざんねーん、その日は両親共々いっませーん(ドヤア』

『……うん、やっぱお前の文悪意に満ちてるな』

『姫ったらヒドーイ』

『だから姫言うな』

『ま、とゆーわけでおやすー』


ぱたり。折りたたみ式の携帯電話が息を吐き出す。その物体をベットに放り投げる。ぱふり、今度は布団が息を吐いた。
そしてまた、ごろん。転がって、掛け布団を巻き込んで、ロールケーキみたいに転がって。ぐるぐる、ごろごろ。
雨も収まってきて、今ではぱらぱらと。可愛らしい音を立ててふたりの間に降る。想いの雨を降らせてふらふらと君へ。
次第に雲も晴れてき、かくれんぼしていた月が顔を出す。その光は二人をつなぐ渡り橋。
そうしてひかりは彼を照らす。その顔はいつにも増して満足げで。その薄紅色の唇は弧を描いており、瞳はふつらつらと。

嗚呼、早く来週にならないかな。









(きみいろのよるをこえて)