※イナゴ。口調・性格は俺設定。











じりじりりり。アスファルトが跳ね返すは其の熱気。陽炎がゆらゆらと足元揺らめいて。

「あっつー!」
「そりゃ夏だからな」
「でも以上じゃないコレ?今日軽く39度とかってどうよ」
「……俺に言うなら地球に言え」

というか温暖化にモノ言っても、実質元々は自分達ニンゲンが悪いんだから。
そう言えば納得しないというようにそっぽを向く彼。というか夏とはこういうものだと思う。
蝉の声が鼓膜を支配する。毎度毎度聞き続けてきたBGMは既に好き嫌いのどちらかを選ぶのことさえ忘れ。



「あ、」

何か思い出したように、隣の彼が声を上げる。汗が光にうつろいで。
そして何を思ったのか、こちらに向き直る目の前。ふわり、その季節外れの髪色が揺れて。

「あのさ、今夜空いてる?」
「…何故に夜」

ぐいっ、いきなり至近距離になる顔。不意に思わず肩が跳ねる。
すればにこにこと笑顔になる彼。その姿は女子に類して。

「なつまつり!」

アスファルトに言の葉が弾け跳ね返った。




















十八時。携帯のディスプレイがそう告げて。約束の時間。
月は三日月。この道を照らして。

「――勿論女モノは着てきて無いな」
「会って第一声がそれってどうかと思うよ。ほら、普通は"ダーリン今夜も素敵でたくと死んじゃいますぅ"とか無い、」

無いからな。ばっさり、言わせる前に無残にも真っ二つに割れる言葉。

「その自転車壊してやろうかこのたらし」
「俺の相棒殺しちゃ駄目」
「……相棒ねえ…」

へえ、にこりと微笑む顔。しかしその笑顔は痛いほど冷たく、こんな蒸し暑い夜には似合っており。
しかし其れにも動じず、しかもまた笑むのは彼であって。

「大丈夫。俺の恋人は拓人だから」

にこにこりん。華がひとつ、咲いて。熟す果実。
あまりにも唐突過ぎて、どう反応してよいかわからずただ言葉が空振りして、唇がぱくぱくと空気を吐き出すだけで。

「あ、赤面してる。可愛いー」

その笑みは絶えず、気付けば右頬にあたたかいもの。視界を見渡せば、その手は彼のだと気付き。

「か、かかかわいくなんかないっ!そそれに俺は男だっ!…そっ、それに行くんだろ、」

その跳ねた前言を撤回するように、慌てて並べる音の羅列。
はいはい、と彼が指し示すは自転車の荷台部分。鉄が四角く丸く模様を描いている。

「……っ、あんまり言うと殴るぞ」


始終ずっと、神童拓人は顔を赤くすることしか出来ず。
その車輪は廻り始めた。
















煌びやかに灯る光。
ずらりと並ぶ出店やら。がやがや。大人から子供まで、老若男女問わず溢れる人々。

ぱんっ!

そんな中、転がり堕ちるもの。

ぱん、ぱんっ!

ひとつ、ふたつ。はたまたひらりと転げ堕ちる人形たちやら箱やらなんやら。


「……お前ってさ、無駄にこういうの得意だよな」
「無駄にって何かな神童くん?」

ぽふり、ふと渡された大きな人形。俗に、ぬいぐるみとも呼ばれる其れ。

「あげる」

自信げに言い切る彼。どや顔が、そのたくさんの色彩の中で最もはえていて。

「というか何で亀?」

ひょっこりと首を出したその顔。黄緑と緑が合わさって。

「え、だって似てんじゃん。」

「誰に?」

「おーまーえ! 地味に爺臭いとことか」

そういえば一回チームメイトにもそんなことを言われた気がする。そう思考回路が過去をたどる。

「……そんなにか?」

そう尋ねれば頷く桜色。闇色の髪が揺れて。

「神童っていっつも大概部屋篭ってるし」
「物凄く関係無いと思うのは俺だけか?」

というか休日だけな。休日は基本何処も行く予定なんて無いし、家は家であんな竹林の中だから駅に行こうにも、少々面倒であるし。
そう言えば「流石坊ちゃん…」とはたまた言われるオチであって。

「…しょうがないだろ、元々そういう家柄なんだから」
「うん、知ってる。神童がそんな家のおかげで俺は毎度休日には着物なお前を拝めれるんだ」
「うん、ちょっとお前金魚鉢に頭突っ込んでこようか。」
「相変わらず酷いね拓人は」
「名前で呼ぶな」

あと全ての原因を作ってるのはお前だからな。
艶やかで鮮やかな道に、ひとつ黒い塊が落っこちた。












真っ暗な夜空にひとつ浮かぶ三日月。揺り篭のようで。

ぞろぞろと人だかり。元からの蒸し暑さと、この人口密度。さらに温度が高くなるのはあたりまえで。

「……大丈夫?」
「……何が」

がりがりとひとり林檎飴を食べている闇色が、ひとり。その舌は飴のせいで赤くなりて。
「ひと、多いから」
暑くないかな、って。
そう尋ねれば大丈夫、と頷く彼。お前は俺がこのぐらいでくたばると思ってるのか。

「まあ確かに神童ならそうそうくたばらないか。長生きしそうだもんね」
「霧野も十分長生きしそうだけどな」
「ふふ、ありがと」
「……」

別に、褒めたわけじゃないから。
言っては口に含む甘味。口の中に広がって。

その姿は艶やかで。そして、したたかに首筋を流るる汗がまたなんとも。


「――拓人、」

言葉を切り出した瞬間。
聞こえる爆発音。そして夜空に咲いては散る華たち。赤、黄色、白、青……様々な彩を見せ。
煌びやかに、舞い踊る光。

そして、触れる唇。あたたかい、温度を保って。
温度によって融ける飴。ふたりの間、転がって。
はふり、そして離れていく接物。
その輪郭を、花火が映し出して。

最後にはこうやって舌を出して笑いあうんだ。

「あー、真っ赤っかだ」











(とある夏の日)