それは、突然降ってきた。
「霧野ってさ、ねがいごとってあるのか?」
いつだったか、幼い君が言った。あどけなさを残した、少し大きな瞳が自分を真っ直ぐに。ただ純粋に、一片の汚れも知らず。無邪気な子どもの問い掛け。そこには、他の余計な意味など見当たらないのだ。
うーん、と唸った。どうだろうか、そんなようなものなんて、あんまり考えたことなんて無かったかもしれない。あっても一時的で、"雲に乗りたい"や"空を飛んでみたい"やら"サンタに逢いたい"やらやら。なんとも子どもらしい、夢のような突発的感情。大した意味や意志なんてものはそこに存在すらしてはいなかった。
「そーゆーお前はどうなんだよ、神童」
思わず言葉をそのままひっくり返す。
え、っあぁ……んー………。いきなりの事に戸惑い、ふと零れる声。きっと今頃彼の頭の中では色々な事柄がどったんばったん、ぐるぐるごろごろと巡り廻っているのだろう。ころん、何かが落ちた。そして子どもは気づく。
「おれは霧野に聞いてたはずだ」
「……む」
ああ畜生。バレたか。
仕方ない、そう息を吐き出しては空を仰いだ。雀が、声を振るわした。
「――じゃあ、」
鴉が道路によこたわっていた。
その姿に、こんなときだけ顔を歪まし同情しようとする自分は愚かな偽善者なのだろうか。スイスイ。横舐めする思考。それでも、何かと行動を起こす訳でもなく。ただその事実に蓋をして、なにくわぬ顔で通りすぎる。
夕暮れ蜩笑う声。耳を突き抜け厭よ厭よと嘆く虫。そろそろ、日は1日の行動時間を短く去り行き。
歩くひとり。
「――」
見上げても、見えるものは限られて。微かな一等星がこぜり、消え行く日々。
感じる素肌はもう亡くて。バイバイサヨナラ。野良猫啼いて。
なあ、今ならちゃんと言える気がするよ。今なら、ちゃんと。心から、想えるよ。だから、さ。
「ずっと、俺の側に居てくれよ」
じゃないと、君自体を忘れてしまうよ。
(アイワナ)