1day1sss | ナノ



停留場にて

2013/05/31(Fri) 23:34






風鈴がからん、音を立ててそよ風の訪れを報せた。相変わらず私は知らぬ顔をして、空を見上げた。真夏日の今日は、雲ひとつない晴天だ。ペンキをそのまま塗りたくったような輝かしさは、私にとってあまりにも眩しすぎる。思わず目を細め日陰へと移った。

「バス、こないね」
隣のカノが憂鬱紛れの声を出す。自販機で買ったばかりの天然水を首に宛がうと、ひんやりと冷たくこの体温を下げた。そういえば今日の最高気温は一体なんだっけ。忘れてしまった。
「そら、田舎だからな。」
街からある程度離れた此処は2時間に1本ぐらいしかやってこないど田舎であった。絵に描いたような青々しい緑。遠くにはきらり輝く海も見える。古ぼけたバス停の中、そっと太陽から逃げるように待っていた。

家族の墓参りの後。大切な、仮の母親と、姉にそっと別れを告げふたり。炎天下に燃え盛る菊。白い鳩が遠くに消えていく。様々な蝉が煩く騒いで見るが、皆同じようで別の言葉を叫んでいる。
もうひとり一緒に来ていた幼馴染は、仕事だと言ってさっさと先に帰ってしまった。
そして、現在に至る。
「そろそろだと思うんだけどなぁ」
「バスはあんまあてになんないぞ。時間的に」
「んー…まあ仕方ないっちゃあ仕方ないけど」

ペットボトルの天然水のキャップを開け、ごくりと喉に流し込む。ひんやりと潤う体。それは快感的でもあり、濁った視界をクリアにしてくれる。イヤホンから流れる曲が、シャッフルで爽やかなロックナンバーに変わった。
そして、それに被るように赤い車両がやってきた。

「次は来年のお盆、か」
「あー、そうだね。」
「――。」
「キド、どうしたの?」
覗き込んできた琥珀色が問うた。淘汰。目玉をぎょろりと動かして蜘蛛は動かない。
「いや、ただ……遠いなと思っただけだよ」
「遠い、っていうかたった1年のことだけどね。もしかしたら、案外すぐかもしれないよ」
車内はクーラーが効いていて非常に快適であった。窓越しの暑さが嘘かのようだ。海は、いつまでも空を映している。入道雲に飛行機雲が突き刺さる。
「カノ」
「ん、」
「また、来年もこよう」
「……どしたの。いつものことじゃん」
「別に。ただ、再確認しただけさ」

ぐらりバスは走り出した。






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