1day1sss | ナノ



白昼夢の月

2013/02/01(Fri) 20:25






ふと、それは流れ出したのだ。
優しい、アコースティックな音色がリビングいっぱいに広がって、まるであたりが鮮やかな花畑のような錯覚をしたのだ。
しろい、部屋にその音はよく絡まっていた。キッチンで紅茶を淹れていたマリーは、その飽きるほど堪能していた曲に振り返った。目についたのは、鴉のよに黒く焦げた背。更にその奥にはラジオがスピーカーから叫んでいた。
唐突のことにきょとんとその手を止めると、彼が気づいたように振り返る。
淡い霞の花が、音も立てずに消え散った。
「知ってるの?」
琥珀色の瞳がこちらに問うた。その姿はこの幻想風景に似つかわしくない虎の子のようにも見えた。素直に頷けば、へぇそうなんだ。なんて言っては再びソファに腰掛けた。
そしてまた、何事もなかったように虎は花を摘み取った。


そうだ。私が忘れる筈がないのだ。浮かぶ景色は2つ年を遡ったとある日。
もう日々を数え歌うことも忘れてしまった私に、私の中にすっと流れ沁み込んだ音。
ずっと、風が泣き止む日を待っていた。
きっと、鳥の歌は遠くに飛んで落ちたと想っていた。
そして、雨音が憎らしい夢も見た。
飽きるほど繰り返すだけの日常が、ぱっと割れた時。その音は確かにイヤホン越しに私を宥めていたのだ。
あの時から、私の体にはその音が流れ出している。きらめく午後の木漏れ日ように暖かで、せせらぐ川の水のように、そっと私を待っていた淡い三日月のような。

とある子供が今の私を満たしてくれた。
こぽこぽとやかんが、「もう時間だよと」私を急かす。はっとしてバタバタとシンクまで戻っては、そっといつものものをまた作る。
くるくるからから回るように私はまた日々を過ごす。
ラジオからは依然あの歌が私を潤す。花は足元そっと控えめに咲いていた。

そしてまた、戸が開く音がした。


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カゲロウプロジェクト

セトとマリー
想像フォレスト一周年おめでとうございます






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