1day1sss | ナノ



俯瞰的世界

2013/01/10(Thu) 23:44






くらくら揺らぎ虚ろいながら、俯瞰を眺めていた。
意識がしろく、ぼやけて消えていく。
カーテンを締め切り、漏れる光が眩し位だ。どうやら、外は朝焼け鴉も目覚めた頃合いだ。
まばらに山になっては崩れ落ちた本たち。簡素なゴミ箱は死んだように倒れている。床は長い間掃除されていないのか、埃が積もり、カーテンの隙間からの日光に照らされては雪のようだ。

首から下が、重くて怠くて動きやしない。神経が冷めたように、引いては麻痺している。まるで擬似的人形体験だ。
首筋は、きりりと痛んだ。重力に従って、体重は下に向かうのだから仕方がないのだ。
その目線の先、机の上に放置された携帯電話が震えだした。向こう側の誰かさんが、必死にこちらに呼びかけているみたいだ。ぶうぶうぶうぶう。ごとん。遂には床へ這い蹲った。
さてはて、相手は一体誰だったのだろうか。もう、視界は薄れてぼやけて使い物にはなりやしない。
でも、まぁいいや。
脳細胞は必死に酸素を欲しがって手を伸ばす。なんて無意味なのかと一頻り思う。そもそも、動けやしないというのにね。

そして耳鳴りが止んでしまった。







この街を北の端っこへ行ったところ。住宅街にそれは紛れていた。
クリーム色の外見に、箱のように四角い家はごく一般家庭の象徴のようだった。モデルタウンだったのか、似たような家々が仲良く並んでいる。だがその家だけは、「KEEPOUT」と黄色い線で遮られており、それだけでもその家が異様な雰囲気を醸し出していた。
「いや、雰囲気だけじゃない。気持ち悪い程の死の空気だ。外でこれだから、現場の家の中はそりゃもう息が詰まるだろうな。」
少し眉を顰めながら、散々だと言わんばかりに鬼灯繭は悪態をついていた。
あまり日光を浴びないように帽子を被り、集る野次馬を眺めては溜息が出た。家族もそりゃ大変だろう。平凡だった日々は、ガラスが割れるように途端に砕け散って、更にこれ程まで多くの人々のネタとされるとは。
「さぁ。平凡だなんて誰が決める? 他人と自分はやはり違う。価値観が違うようでも然程問題では無いさ。それは、血の繋った家族でも」

日照りが今日は一段と強く、紫外線紫外線と絶望面で行く女性の目は恐怖に揺れていた。そんな事も気に留めず、彼女はその長い髪をひとつに結っては尻尾のように揺らしていた。繭の行動は単純だ。ただ、本能に忠実なのだ。
「自殺、したらしいな」
ちらり覗く窓は深い黒のカーテンで締まり切って中はわからない。
「何で自殺なんてしようと思ったんだろうな」
「私は、知らない。し、興味も無い」
相変わらずの彼女に思わず溜息が出た。
蝉の音が、耳に障る。じりりとアスファルトは焼けていく。
「でも、死にたいほどこの世界に飽き飽きしてたんだろ」
用は終わったと言う様に繭が、踵を返した。ひとつに纏められた髪が風に攫われる。 亜麻色に光を帯びて。

「でも、そういう奴にかぎって夜中に私を呼び起こすのは迷惑だから是非止めて欲しいもんだな」

死神が、蝶を引き連れ街へ戻った。



(それは或る蝶の御伽噺)






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