1day1sss | ナノ



終末最後の愛を

2013/01/09(Wed) 22:27






アナウンスが街を震わせた。白い息を吐いては凍えた空は高く仄かに青を持っている。
人の影。ひとつふたつとおななひゃく。とても両の手と足じゃ数え切れないと膝を抱えた。強面不安を引き摺って彼らは行く。
どうやらとても怖いんだって。見たことのない世界へ旅立つ不安が心臓をぐいと掴んで離さない。そうだわたしもその先を見たことがないんだ。
期待と希望を描いて不安と絶望を指折り数え呆れ返って。疲れたと、もういっそ投げ出した方がきっと楽なのだ。

溢れ出す拡張器のノイズ。足音はまばらに道を覆い尽くした。

「やぁ、君は急がなくていいの? 早くしないと方舟に置いていかれちゃうよ」
その隣ひょいと猫が顔を出した。いや、違う。これは猫じゃない。それに似ていたからたまたま間違えてしまったんだ。猫のような目をして彼はスキップをするように喋り出す。
「そういう貴方は急がなくていいの?」
「知ってるでしょ。残りものには福があるって言葉」
「でもそれは物の話だよ」
「人間も生きてる"モノ"にかわりはないよ」

そこに存在するのなら、この人たちも"モノ"だ。戯曲のような台詞を吐いて猫はわたしに諭すのだ。
そんなことを言われてもわからないし、きっとわたしと彼の間には「認識」の壁があるんだ。

「そもそもわたしはあの舟の乗り方を知らないの」
人々が増えては消えていく。きっと「方舟」に乗り込んでいっているのだろうけど。
「方舟というものも、よくわからないの。だって、わたしには見えないから」
皆には見えているんだ。わたしは人じゃないから、きっとそれさえ「知ることができない」のだろう。
「だからね、もう諦めたの。」
「それは早いよ」
「でも仕方ないよ」
「神様に云えばいい」
「その神様にも会ったことがないの」
「じゃあこのまま諦めるつもり?」
「……ひとりまた今までどおり空想をして過ごすだけだよ。大丈夫。それで、わたしにはたぶん充分なの」
終わる世界に寄り添うだけだから。
神様なんて居るかわからないけど、縋るつもりもないのだ。だって、そうして神様の荷物を増やしてしまったら、舟は重くなって沈んでしまう。
そう、とひとつ声を一滴彼は残してくれた。
「死ぬつもり?」
「わからない」
「世界が終わるよ」
「じゃあその最後を見ておかなくちゃ」
「どうして」
「だってずっと好きだった世界なんだよ。やっと会えたと思ったら、こんなことになっちゃって」
「世界は、君が想っている程綺麗じゃないよ」
「知ってるよ」
「それでも最期まで"愛してる"と嘘をつきつづけるの?」
「嘘じゃないから、辛くはないよ」
「君だって死んじゃうのに」 
朱い双眸がこちらを見やる。眺める。触れようとはしない。肌にも、この胸にも。
なんだか、このふたりの間には透明な壁が遮っているようだ。
「死ぬより、愛し終えてしまうことの方がわたしには耐えられないの」


ごめんね、カノ。

(方舟は何処へ向かうのだろう)
※※※※※※
カゲロウプロジェクト
カノと、マリー






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