1day1sss | ナノ



カムパネルラ

2012/12/18(Tue) 21:59






雨音が首にしたり、くるり滑り落ちた。
夢を見ていたのだ。きっと。静かに揺れる列車の中、君は目を醒ます。

「どこへ行こうか」
笑いかけると、君ははっとしてこちらを眺めては周りを見渡した。ガタンゴトン。規則的なリズムが心地よくて眠たくなるんだ。
「これは、どこに行くの」
「うーん、さあ知らないなあ」
君は納得いかないような顔をして、何か言葉を飲み込んだ。

窓からちらちら見える星屑は流れる鳥のよう。隙間風は月光を運び。
天の川の前ひとり泣き崩れる織姫の衣が絡み付いて解けない。嗚呼そうか今日はあの川は大荒れなのか。彦星はひとり燃え尽きて欠片になったそうな。

「そういえば緑は星が好きだったよね。」
ふと、目の前眠たそうな彼女に問いかけた。夜に似た色を持つ瞳が、うすら翡翠の光を帯びていたような気がして、また瞬きをした。
「あれ、なんていう星かわかる?」
ふとひとつ力強く瞬く星を指差した。ちらり、流れて緑の双眸が此方を向いた。
「――ちゃんとどれか指せ。そんなんじゃ見えるものも見えやしない」
「え? だから、あの一際輝いてる一等星」
目を細めてまた君は探す。ああ、そこじゃない。そこじゃないってば。言えば言うほど彼女は気づかない。視力でも悪くなったのかもしれない。

「私が化け物だってお前は知ってるくせに。化け物の私が人間以下の視力なんて、残念ながら在りえないのさ」
皮肉のように緑は嘲笑してまた長椅子に座りなおした。
「嘘だ、いやでも緑は嘘をつかない……。でも僕にははっきり見える」
「―――でも、見えない≠烽フはみえないよ」

何を、言っているんだろう彼女は。意味がわからなくて、少し頭を掻き回した。
すると君はまたその眼を閉じてはゆっくりと瞼を開けた。そのひとつひとつが何処かの惑星のようだ。

「星にも死があるんだよ。リン、星はね死んでも光でなきゃいけないんだ」
汽笛が鳴った。霞む星の雨を掻き消していく。
「そして、いつかはまたその光さえも死んでいく。それはもう、宇宙に残った残留してしまった記憶だから。思い出は薄れていく≠ゥら価値がある」

ぱっと、世界が寝静まった。列車の中の電灯も消え、残るのは規則的な稼動音。それはまるで心臓に似通っていて。
冷たくて、指先で溶けてしまうような風。

「でも、無くして、薄れてしまうのはきっと悲しいだけだ。緑だって嫌だって嘆いてたじゃないか」
「……あぁ、そうだな。私は忘れることが怖いし、ずっと鮮明に輝いていればいいなとも思ったことはあるよ」
「じゃあそんな悲しいことは言わないでくれよ」

月光がその輪郭をなぞっては溶けていく。嗚呼、なんて艶やかなんだろう。

「じゃあリンもそんなこと言わないで。」
なんだよそれ、思わずつぐんで黙り込んだ。銀色の雨が列車の中で転がっては落ちていく。
「リンが見てるのは、美しかった思い出で、現実じゃないんだよ」


彼女が泣きそうになりながら呟いた。




(そして僕はもう居ないことを思い出した)






prev | next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -