1day1sss | ナノ



足音

2011/12/07(Wed) 22:53






ざわめく足下。窓から射すのは起きたての朝日。めいいっぱいに世界を照らしている。
教室では会話に花を咲かす者や、一人黙々と勉学に励む者、読書をしては自己世界に浸っている者。まさに十人十色自分なりの時間をすごしていた。
中等部に上がって、しばらく経った頃の話。樹来林の日常が転がる日。

早速窓側の席につき、鞄を下ろしては携帯電話を取り出す。すかさず表示させるのはメールの受信箱。そのうちの最新モノを広げた。そしてまた、考えこんだ。

「――どうした、そんな顔して」
「……ん、あぁおはよ豪炎寺」

いつものように友人と顔をあわせ、「原因」とそのディスプレイを見せてみた。
瞬時、その文面を見て彼は呆れたような顔をした。

「……どう思う…?」
「どうって……」
「昨夜イキナリこれが送られてきたんだけど。"家族が増えるからよろしく"って!」
「樹来の親父さんならいつものことじゃないか。何かを送ってくるっていうのは。きっと犬か何かだろう」

いや、きっとそうだろうけれども。再び、落胆。
父――樹来栖依は世界中を飛び回るボランティア精神が高い(一応)医師である。そんな彼があちこちを点々するたび"土産"として時たま何かを贈ってくるのである。その種類も様々で、わけのわからない壷らしきものや、黒い歪な仮面、ライオンの彫り……主に使用用途が不明なものが多いのが現状である。
それでも父には感謝や尊敬といった念も大きい。だからこそ、思わず溜息をついてしまう。
……さて、今度は何がくるのやら。きっと動物か何かの類だろうから、また後で詳しく聞かなければ。餌や色々用意するものがあるだろうし……いや、それも一緒に送ってくるか。アノ人のことだから多分。

と、思考を断ち切る鐘の音。鼓膜を貫いた。
このクラスを担当する教師がやって来、いつものように朝礼をする。担任は今年から新任した若い女性教師。気前もよく、生徒からは人気も高いという。心地いいソプラノが弾む。
だが、何故か様子が少しおかしい。そうか、少し何故かいつもより嬉しそうなのだ。理由は不明だが。
案の定、すると彼女が手前の戸の方へ手招きをした。まさか、そんな。何処かで見たことのあるような風景がフラッシュバックする刹那。小さな音が聞こえた。


長い、亜麻色の髪。すらりと長く細い足。塗りつぶしたように深い漆黒の瞳。袖口から覗く指先はしなやかに。

「はーい!なんとっ、転校生がやってきましたーっ!じゃあ皆に紹介するわね。彼女は"時雨緑(シグレリョク)"さん。さ、何か自己紹介とかある?」

大勢の前で緊張しているのか、左の手首を握り締めたまま"時雨緑"と言う少女はぺこりと小さくお辞儀をした。
少し俯きがちで、その髪が顔にかかってあまりはっきりと顔が見えない。きっと、消極的な性格なのかもしれない。
生徒たちが少しざわめく。転校生。しかも女子ということで男子は更に興味を引いていた。
だが、教室が賑やかになるにつれてひとり冷めていく何か。金縛りにあったように、その存在から眼が離せなかった。
まるで、幽霊のようだった。決して、髪が多く顔が隠れてあまり良く見えないからというわけではない。存在がまるで、無いかのような感じがした。生気が、無いというのか。その瞳の奥さえ、何を考えているのかわからない。否、逆に空っぽなのかもしれない。長い髪と制服の上からではあまり気がつかないが、体は並より痩せていて、人よりかは一回り小さめのからだ。まるで、少し力を加えただけでその腕さえ直ぐ折れそうな気がした。

「じゃあ時雨さんはあの席ね」
そう言った担任の声にも気がつかず、ただひとりわけもわからず身震いをした。




(はじまりの鈴はおちちゃって)






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