Doll
2011/10/20(Thu) 19:20
「ぼくは、きみのことがすきだったんだ」
ずっと、ずっとずっと。動かぬ人形に告げる。人間が行う生理的衝動の真実を。隙間から漏れる光が細く、消えそうに足下を貫いた。
眠るヒトガタ。瞳は閉じられ、白い手足も陶磁器のように艶やかで一点の染みも無かった。永久に変わらぬ姿。これこそが最高の芸術だ、なんて誰かが高笑いと共に叫んでいたという。流れる髪も、頬も、唇も、指も、睫も、眉も、額も、首も、肩も、胸も、全てすべて――あの日となんら変わりない。
長い時の中を過ぎ忘れられた廃墟の一角。彼が愛した人形は永遠の時を待っていた。
意味もなく、壊れ死に逝くことさえ赦されず。ただただ、一瞬を積み重ねては崩れることを知らなかった。
「僕は、待っているよ。きみが僕のことを忘れていても、きみが僕を拒絶しようと――ずっと、待っているよ。だから、安心して眠っていて」
君が目覚めたあかつきには、君が僕の第一発見者になれるから。
(ひとをあいしたひと)