1day1sss | ナノ



鬼ごっこ

2011/08/14(Sun) 00:53






振りほどいた身体を見て、彼は言った。


「あんた、何のつもりだ」


「何が」


「俺たちに逆らうなんてな」


「ほんとうは薄々気付いてたんじゃないのか?」


睨む視線を浴びながらひとり、その中央に佇んでいた。
にぃ、と帽子の影に隠れた口元が歪んだ。ケラケラと笑いだした影。生き物のように縦横無尽に動き出す。


瞬間、奥の方でひとつ悲鳴が聞こえた。ぶすぶす。大の男が何を悲鳴なんて上げているんだ、笑い言おうとした手前の男がまた、影に捕まった。バタバタと四肢を足掻けども、底なし沼のように吸い込まれて行く。
また、あちらでもそちらでも。悲鳴の大合唱。センターはゲラゲラ哀れだと笑う少年。
怖じけづき逃げようとする足にも絡み付き。其処に影があるのならば、もう逃げ場なんて何処にも存在していない。
ただ、少年の高笑いだけがステージに響いた。




*


「どうだい霜雨焔。このおれ様の業績を!」

バッ、高らかに誇らしげに腕を広げれば、その反動で堕ちる帽子。そこからバサリ。鴉の様な長く多い髪がこぼれ墜ちた。
証明が当たる彼は正に主役。ひとり感心気に満足気に。証拠にその顔はとても意気揚々としていた。
だが奥にて呆れている観客の顔は如何なものだった。


「人を殺すことが業績というわけじゃない。仕事内容ならまだしも」


「それ、まさかおれ様に対する妬み?それとも先輩ヅラ?――霜雨あんた聞けばまだ人を殺したことがねぇんだってな」


笑い歪む少年の面相。霜雨焔もとい時雨緑は顔色を変えない。


「たまたまそんな機会が無いからな、まだ。それにヒトガタを斬るなら屍で間に合っている。お前が無闇やたらと殺りすぎなだけだ。――このままだと取り返しのつかないことになるぞ陰羅(インラ)」


「殺ったことが無い奴が何を言い出すかと思えば」


うにゃり、唸りをあげる影が少女の足元に及ぶ。地を這う百足のように絡み付く。
にやり。弧を描き、わらう陰羅。獲物を捕まえた豹の顔。そんな彼をただ少女は眺めているだけだった。


「餓鬼が」


更に呆れた表情を浮かべ、その百足は断ち切られた。
――影が、斬られた……?
っ、息を切り思わずのことに一瞬動揺する思考。初めて見た彼女の能力にひとつ、息を飲んだ。
しかし直ぐ様思考を安定させ幾つもの影を彼女を捕らえ消そうと動かせる。
翠色をした眸が視界を霞み、消えた。


「――いくら数が在ろうが無かろうが、任務遂行求められた結果を差しだせる奴が一番高く評価される。因みに今の陰羅には暗殺や隠密行動なんて出来やしない。」


殺人をパフォーマンスに見立てているお前にはな。


しゃりんっ。大きく鈴の音が聞こえたと思えば、風は止んだ。
背後、喉元僅か2ミリの余韻を残し。刃が突き立てられた。


「どうする、死ぬか?」


少し嘲笑するように少女は云った。


「は、殺し屋ならそんな戯れ言吐く前に殺ってるぜ。カタブツ野郎」


「私は仕事人であって殺し屋になった覚えは無い。ただ勝手に殺すとなると後片付けが面倒なんだよ」


「うわっ最低だなあんた」


「まさかお前に言われるとは思わなかったよ」





(異端児は愛をうたう)







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