しかし、と男が口を開いた。
「霜雨も物好きだな。あんな身内と一緒に居て。嫌いなんだろう」
思わず、林檎飴をかじったまま少女は立ち止まった。
誰のことやら、数秒思考してからあの嫌な兄の顔が浮かび上がった。
「……何だいきなり」
がりっ。噛み砕いて飲み込む。少し噛む回数が足りなかったか、喉がヒリヒリと痛み出した。
カラウはそんな、水を飲んだ緑を観察するように眺めていた。
「それに、今は仕事中だろ」
「飴を食ってるあんたもな。それに、仕事と言ってもまだまだ俺たちの出番は先だ」
そう言いながら二人は街を見下ろす。ネオンが騒がしい。その合間をぬい、黒の車が静寂の中を走る。
"霜雨焔"(ソウホムラ)というのが、緑の仕事時の名であった。基本、こんな裏の仕事をするにあたって偽名は必要らしい。本名の奴も居るが自分の場合は、昔能力者で"名を聞くだけで相手に何かしらする"という厄介者を相手にしたのもあって、念のためまた別に仕事関連ではこの名を名乗るようにしている。
カラウはよく合同で仕事を受け持つことが多い。兄曰く、どうやら能力的やらで相性がいいらしい。それのせいか、成人男性恐怖症を患う緑でも、カラウは何故か平気であった。
するり。
ふと、髪に掌を感じた。
「そんなに怒るなよ」
サングラスをかけ、眺めのジャンパーを着ているカラウが笑う。
「別に、……ほんとう一体今日のお前は何なんだ…。意味不明だぞ」
「ただ単純なことさ」
そう言ってまたその大きな掌が頭を撫でた。
「お前の髪が長い内に遇っておけば良かったと思っただけさ」
(その男、愉快)