1day1sss | ナノ



さよならクラウン、どうかサイハテで。

2011/07/20(Wed) 11:21






わたしの体には、一匹の「  」が住んでいる。

そしてね、あなたのその首を絞めるの。

そんなことを言ったら、彼は大笑いした。体が上下左右に揺れてその髪がふわり、ゆらぐ。

どこが面白いの?


「――っだ、だってさ、どう考えたって可笑しいじゃないか」

そんなに、可笑しかったの?

可笑しかったのだから、可笑しかったのだろう。

「お前ってさあ、想像力豊かだよな。将来が楽しみだ」

相当可笑しかったのか、その目頭にはぽつり、涙と呼ばれるものがひとつぶ。
顔もどこか赤く色づいている。

どこかのひるさがり。

とあるほしのひるさがり。

このふたりのざれごと。

葉は新緑に。はらはらと、夏のにおいと暑さと共に。

「あー、早く学校終わって夜になんねーかなあ」

そんなに、ここ、いや?

「べっつに。そーゆーわけじゃない。……確かにガッコ自体はあんま好きじゃないかもしれないけど、こうやって逢えるひとがいるから」

そう。

「うん。」

笑顔。微笑み。桃色。青色。はにかみ。入道雲。木々。花。種。木陰。学校。白。

すべてがすべて、こうやって混ぜ合わさってみえるもの。


わたしにも、だいじなものがある。


「へえ、おまえがたいせつにしてるものか……。硝華のことだ、どーせガラクタとかだろ?」

がらくた……ならばわたしのソレは、"ガラクタ"と呼ぶの?

「……鐘華、おまえってさあ…なんつーか……冗談きかないよな」

冗談だったの?

「………うー、ん。やっぱなんか狂う」

そう言って彼は頭をかく。くるくるころころ変わる表情は見ていて飽きない。


そう。狂うの。


「いや、その、なんつーか悪気とかじゃなくて」

うん。わかってる。



つき。ふたりを照らす。



「――もう、夜だな。早い」

だって、これはあなたが望んだこと。

「………。」

くるくる。天を翔る無数、幾億の星。光は此処に降り積もり。
やがて夢を消し去る。
大口開けた黄金がふたりをのぞく。彼の結末を嘲笑うように、大きな穴からかみさまの目が覗いている。
この学園には七不思議のひとつにこんなものがあった。


"満月の夜、彼女に三回目遭ったらその魂を喰われる"


実質わたしは、もう何回も喰らい尽くしてきた。

あの白銀の蜘蛛が青い鳥を喰い終えた後。あの日は目が霞むような満月だった。
彼はこれで三度目。わたしに遭ってしまった。


ねえ、知ってる?この文には書かれていない、わたしと遭ったり、魂を喰べられる条件。

「――一応は」

そう。


わたしに魂を喰らわれるには条件がある。
ひとつ、わたしに満月の夜あわせて三度遭うこと。
ふたつ、わたしに喰われる程の代償――つまり、


『"わたしに喰われる程の大罪を持つもの"』


ほつり。闇に溶け、光に吸い上げられていく言葉。

長い彼女の髪がふわゆらり、無重力によってくるくる遊ぶ。


さぞ周りの人間は気持ち悪がったでしょうね。

「そうだろうな。」

周りから見たら変なひとりごと。ニート学生のつまらないお遊びだとも思ったでしょうね。

「……そうだろうな。」

ふと、彼女は思った。元々思想なんてほとんど持ち得ない彼女が、思いを馳せたのだ。


あなたは、否定しないの?

「否定、何を?」

わたしと遭ったこと。わたしに、喰われる事実を。


しにたがらない。

今まで遭ったひとのうち、ほとんどは「許してください。どうか赦してください。死にたくは、ないんです」と嘆いていたというのに。


あなたは、しにたがらない。

少年の目が、細く、そして閉じられた。

「――俺は、そんな赦されようとも思わない。だってそうだろう、おまえと遭うほどの人間なんてこの世界のゴミ以下の輩だ。俺はそのひとり。償えないほどの大罪を犯したひとりだ。それを否定したところで、事実も真実も、世界も過去も現在も動き、かわりゃしない。」

『潔いいのね。』

少年は彼女を、少女は彼を見据える。

光さえもうその、少年の瞳は受け付けていなかった。


あなたと、似たような応えをしたひとが居たわ。

彼は、黙る。

彼も、あなたのように大罪を犯した道化師だった。

淡々。動く唇。

わたしは彼に問うた。あなたと同じように。
すれば、彼はこう応えたわ。

"僕は元々生きている実感さえないから、否定する理由も何も無いよ。僕にとっては君に遭ったということさえのほうが確かに意義がある。僕とまともに会話できたのは君ぐらいさ。僕はたとえるなら沢山あるだろうね。詐欺師、道化師、狼、猫……そう、たくさん。僕はそういうイキモノ。それくらい自分でわかってる。――君はこの、「嘘つき殺人間」を消しに来たんでしょ。なら、それでいいよ。僕はそういうニンゲンだもの。今日もまた僕はさっき罪をふやしたばかりだからね。……蜘蛛が海月に喰べられる、面白い話じゃないか。"


「生憎、俺もそんな心境さ」

と、いうと。

「俺も、お前に喰われるのを待っていたイキモノなんだからさ。」





ひとつ。翌朝にはとあるひとりが神隠しに遭った。
彼は過去、弟二人と母親を放火殺人でこの世から消し去った少年18歳とその活字と音が画面を踊っていた。





(嘘つきベイビー、クラウンと謳う)





ベイビーベイビーまた今度。




* *
「嘘吐きベイビー」後日談






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