ある日注意された。
「貴女はあまりに力に頼りすぎている」
それは、あまりにも危険であり、身を滅ぼすと。
そして、自分自身の力量の存在価値を否定しかねまいと。
「ねえ!どう思うシェルー!」
自室のベッドに音を立ててダイブする少女。女の子らしく可愛らしいものが溢れたその部屋で、栖爛亜理紗(セイランアリサ)は相棒である妖に嘆きかけていた。
宙に浮かぶクリオネのような体がくにゃりと羽を伸ばした。
「知らないよ。僕はカミサマじゃないから」
ぽつぽつ浮き出る泡のように、呟くようにその嘆きを投げ返すシェルー。ぷわぷわと漂い。
その返答にぶっすうとする亜理紗。両側に結いだ赤色の髪がごそごそと揺れた。
「カミサマのあたしでもわからないのに?ありえないでしょ」
「そんなこともあるんじゃない。知らないけど」
「……ふーん、あたしでも…知らないコト……かあ………」
クッションを抱いて、ベッドの上に転がる亜理紗。ぐるぐると廻る時計。逆様ワールド。長い髪が頬に張り付いた。
「ねえシェルー、あたしってカミサマなんだよね。"天空の姫君"」
もう一度、と確認のように再び確認する少女。その眼には期待とその先の未来(むこう)を見越し。台の上の菓子に手を伸ばす。
「なんでもできるんだよね。あたしが力を使えば」
「……」
「なんだ、簡単なことじゃない」
バリッ。軽快よくクッキーが割れた。少女のあかいあかい口の中にて、どろどろに融けていく。それははたまた血のようだと誰かが畏れおののくのだろう。
その弧が音を立てず歪んだ。口元が、ぐにゃりと満足そうに線を引く。
シェルーが流し横目に捉える少女の現実。亜理紗の手元に何時の間にか咲き誇る、幾何学的金属的な花。シルバーに、黒く輝く線たち。それに迸るは赤い電流。バチバチと元気よく跳ねる。
「――そうだ、あたしは神なんだわ。何もかも、許される存在」
自己暗示のように、改めて自身の両手を見つめた。そして、指先をなめた。どくん、何かが高鳴る音がした。
ふと、脳裏に過ぎる過去。人々。人間。誰か。エクセトラエクセトラ。
そのひとつひとつを手にとれば、またオマケとしてとある感情たちがくっ付いてきて。嗚呼、何と憎悪と愛で形作られた日々。世界。
アイツだってそうだ。何も知らずに、何も自分のことをわかっていないくせに。ふつふつと湧き上がってくるもの。これを、怒りと呼んでみようか。くすり、笑う悪魔。
いいわ。見返してあげる。そこまで云うのであれば、あんたにあたしの全てをみせたげる。あたしを本気にさせたことを後悔させてあげる。恨むのならば自業自得。だって全部ぜんぶあんたのせいよ。
このままじゃあたしは"消える"? フザケタことを云わないで。だってあたしはカミサマなんだもの。死なんて存在すら無い究極体よ。危険も何も無いわ。精々あの世で自分が言ったことをずっと悔やみ続けるのね! その懺悔は神おろか聖母にも届かない。嗚呼、何と滑稽なのでしょう。笑ってあげるわ。
「――フフ、フフフフ……っは、アハハハハハハハハハハハハ」
あー、駄目だこりゃ。笑いが止まらないわ。あーあー。声を上げる。応答確認すら放棄して。
「なら、世界を作ってあげるわよ……紫苑――!」
再び自分を侮辱した妖の名を叫んだ。
(造型世界と朽ちた神)