誰かがその光景を笑った。滑稽だと、相応しいと、腹を抱えて笑ったそうだ。
「わたしはそうは思いませんわ」
ドレスを揺らし彼女は言った。
発展した街が活気を帯びる。芯まで凍えそうな雪の中。マフラーにうずくもる。
「あの方が、公爵様が既に死んでいるだなんて。子供は大人しく家に居なさい」
「別に、信じたくないなら信じなくていいよ。貴女には本来関係ないんだから」
「関係在ります!」
否定すれば、さらにその事実を否定し主張する女。ふわりとそのカールがかった髪が揺れた。
「どうして?身内でもないのに」
「子供には一生わかりません」
「年齢的はボクの方が何倍も上なんだけど」
「想像力と口は達者なのね」
そう言いながらづかづかと歩いていく女。その隣歩く少女。マフラーが揺れた。
「想像力ならこの国が一番豊かだと聞いたよ。特にユニコーンなんかは是非会ってみたいね」
「貴女のような人には、きっとユニコーンも会ってくれないでしょうね」
そうかい。少し手を伸ばし、雪に触れてみた。温度によって溶けいくそれ。
深い藍色の髪を揺らした。長く、それは雪よりも、氷さえも凌ぐ程艶やかに冷たく。風を斬っていく。
「レイティ、貴女はもう帰ったら如何。今から向かう場所は貴女ような人間は来ない方がいいわ」
「何を云っているのかな」
振り向く女。ふと、若草色のドレスが雪と混じった。
そこには紅い眼をした、少女の形をした異端物質が在った。
「ボクの名はそれでも無いし、勘違いされたら困るな。ボクはボクの為其処へ赴くのであって、貴女たち人間はどうでもいい。まあ、それでもというのであればボクは貴女がたが公爵に喰われるのをちゃんと看取ってあげるよ」
人間でないのであれば、少女に感情なんてものはただの玩具にしかすぎないのだ。
(19世紀、ロンドンにてワルツを踊る)