1day1sss | ナノ





2011/07/28(Thu) 23:46






消え去る残像。弧を描き落下する腕。勢いよく噴射する即席紅噴水。小さく雨を降らせた。


キィイイイイイイイイェエエエアアアアアアア――


それはまた、サイレンのように。意味さえ持たぬ語句たちがつらつらと、絶えず横並びに整列する声。叫び声。嘆き。
バタバタと陸に打ち上げられた魚のように痛みに跳ねる巨体。どうやら、まだちゃんと死にありつけていないようだ。
右手が刀の柄を再び握り締めた。しゃらん。少し、鈴の音が聞こえた気がした。
目の前垂直に向かう相手。少女はただ、真っ直ぐに走り出した。
駆け出す音をまた奇声が投げ飛ばそうとした。瞬時、空を切る音。既に少女は其処に居なかった。ただ、感じる生温さ。


そして、気づけば咲き乱れた華。嗚呼爛々。
巨体は、動きを止めた。




「――……っ、は」


瞳の色が色彩を失っていく。翡翠石でつくられたようなその双翼も、ぱらぱらと消えて行った。先程妖を斬った刀も、何時の間にか消滅していた。


「結構制御が上手くなってきたな」


「……スバル。なら、まだいいんだけれども」

ひょっこりと飛び出してきた白鼬。雪原の中に紛れ込んだら、きっと見分けがつかないのだろう。誰かがそう呟いた。
そして最早残骸となったその巨体にまで歩み寄り、自らも巨大化してはその身を貪り喰らい始めた。切れた青い瞳、蒼い背中の模様がよく映え。口元に付く対象色。


「相変わらず、何時見てもグロテスクだな」


「見慣れて無いからそう思うだけだ。結局、どの生き物でもやってる事は全部同じだ」


「……禄妖って大変なんだな」


ぐしゃむしゃ。目の前で行われる晩餐。深い深い夜の中、人気の無い森の中。明かりも無い此処ではきっと何処にもいけないのだろう。それでも少女はそんな景色を眺めていた。ぼとり、ふと膝に落ちた液。思わず見てみれば、丁度自分は血まみれだったということを思い出した。
力で浄化しようかと少し思ったが、今は極度に疲労を感じているし、なんせスバルに乗れば直ぐ家路に着くだろう。つまり、面倒と言う事で。へたり込む足下の虫。そういえば、もう春だったということを思い出す。そうか、ついこないだまでこの髪も鬱陶しいほど長かったんだっけか。

脳裏巡る記憶。べたべたの手で、水分を吸った髪に手を伸ばしてみる。少し癖がかった髪が揺れる。


「大変というか、正直面倒なだけだ。姫君の観察記録係ならまだしも、いちいち殺された妖の後片付けまでなんてな。――まあ、でもたらふく喰えるからそれはそれでいいんだが」


ぷひゅっ。
小さく甲高い声を漏らし、食べ終わる妖。その足下にはもう先程の残骸は残っては居なかった。
強いて言うならば、染み付いた紅と少女の赤化粧。そして鼬の口元苺ジャム。


「でも妖を喰うなんて、別にスバルとかじゃなくてもいいんだろ? 例えば、紫苑とか」


「まあ其れに関しては基本。ただ俺たちの方が何かといいというだけの話」


ふむ。そう勝手に解釈しては納得するひとり。月が雨雲から這い出してきた。誰も居ない何も無い道しるべを失った森の中。少女はひとり立ち上がり。その白に触れた。


「取り敢えず、疲れた」


そう云って瞼を閉じた。





(箱庭へ赴く前)






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