彼女はとんでもなく馬鹿であった。
勉学もそれほど。後先を考えず行動する一面。何かを決めれば、突っ走る。時折見える子供のような発想・思考。等幾多多数。幼馴染の自分が言うのだから間違いは無い。
何とも天真爛漫な彼女は、そんな性格からか慕われる事も少なからずあった。
何かの先頭に立ち引っ張れれるようなリーダー的性格。そういえば運動神経も人並み以上にあった。多分、自分が知る中では彼女を体術で打ち臥せれるような人間は居ないであろう。それほど馬鹿力や突発性には申し分さえ撤回してもいいほどであった。
そんな大和撫子から程遠い少女にも、ひとつ得意なものがあった。否、得意というより最早それは彼女の為だけに在るかのようにも思えたもの。
歌唱。
神の子とまで、誰かが云った。そのソプラノは天高く響き、時間さえ置き去りに忘れられ。
(――確かに、あながち間違っちゃいないんだけどなあ)
「あれ、翠葉今日は早いんだな。林の見舞いか?」
ある日のことだった。それは唐突に。深い紫の長髪を靡かせ、校舎を出る姿をつかまえたのだった。
「いや、今日は違う」
「ん、何かあったっけ今日……?」
そう考え込むひとり。そしてそんな女神はこう自分に笑いかけてきた。
「青葉、」
「あ、何だよ」
「明日からわらわは此処に来ぬ。後は任せたぞ」
笑顔で、さらりと流すように彼女は言ったのだった。
(忘れられた少女の噺)