1day1sss | ナノ



今宵、月は青く

2011/07/27(Wed) 22:13






変な夢を見た。
とある友人が、"彼氏"として自分といる夢。
今朝起きて直ぐ様の感想としては、
何があった、一体。
仮にも相手も自分も男であるというのに。
何だ。何かストレスでも溜まってるのか、俺。
何時ものように聞こえる小鳥の囀りや射し込む日の光さえもが、まるで自分を嘲笑うかのようでうざったい。
まあ、つくづく自分は馬鹿だと思っていたが、ここまで酷いとは。
寝起きが悪いせいで重い身体をそろそろとよじり、制服を手に取る。
――しかし実を言えばそんな夢を見てしまったことなど結局自分が悪いんだが。
自然とこぼれた重い溜め息は部屋の隅に静かに消えた。


本日何回目かの鐘が鳴る。
生徒達はそれぞれ各自昼食をこぞって、好きな場所で好きに食べる。
だが自分と言えば、ここ何時間も夢のことから頭が離れない。
白いツンツン頭。
幸いなことに本人は別クラスで、ある意味過度に接触する事は無い。
もし、アイツがこのクラスだったら――、
顔が不意に熱くなる。
(………馬鹿。だから、俺は豪炎寺に何を求めてるんだよ…)
まだ不覚にも火照った頬を髪で隠しながら、何時もと違い屋上へ逃げるように走っていった。


グラウンドにもちらちらと色が灯り始めた。
基本大体の人間が昼食を済ませ、別の行動を示しているそんな、昼下がり。
屋上は偶々もぬけの殻だったので、ある意味ほっとした。
けれど食欲が未だに湧かず、少し食べただけ。


………。


その場に身をうずくませる。
外の喧騒が煩くて耳を手で塞ぐ。
もう何だか、色々と、駄目だ。
「何だかなあ、……もう」
緩やかに下り始めた太陽は、痛い程大地を照らし続けていた。







結局その後の部活さえままならなく、流石に心配して尋ねてきたチームメイト及び友人達には軽い寝不足だと誤魔化すばかりで(其れに皆納得してくれた事に少しの罪悪感も)。
だがしかし相手のポジションはFW、対して自分は基本DF。
何かよほどの事がない限り互いがそれぞれ相容れる事等皆無であり、しかも練習場所は端と端。追い討ちにも似たこの距離。
しかしそのお陰で気が少しではあるがマシになったということは言うまでもない。
ただ時間と指示等の声がグラウンドを満たす。何時もなら何も違和感を感じ無いこの場所でさえ、今の自分にとってはかなり有毒ガスが蔓延している空間にしか思え無かった。
解散を告げるホイッスルを合図にそれぞれが後片付けや帰宅の準備を開始する。そして今更ながらに思い出した。
(――そういえば方向同じだ)
本当にどうかしている。
何時も帰る方向が同じで、幼なじみを交えて必然的に帰宅している事を忘れるなど――溜め息さえ出ない。
「風丸、帰ろうぜ!」
「あ、すまないけど先帰っててくれないか」
「?、何かやることあるんなら手伝おうか?」
大丈夫。だと言うと幼なじみに、無理するなよとひとつ、釘を刺された。
そんなこんなで会話のキャッチボールを終わらした。
馬鹿。ほんとうに、とんでも無い、直しようもない、阿呆で馬鹿者。
独り暗くなった帰り道。
ひとつの虫が光に誘われ、焼ける音がした時には無様に地を這っていた。
宙を泳いでいたソレは無惨にも夜の深海に溺れたのだ。
暫くすれば堕ちたのは生命活動を終えて土へと還るだろう。
多分、今の自分も同じ。
自惚れた夢を視て、勝手に日常に墜ちる。
そしてたかが自尊心の下他人を拒んで、まるで勘違いも甚だしくて。
変な自重心は有りもしないことに制御装置を掛けて。
不意に止まる足元。
結局自分は、彼が羨ましいんだ。
だから、自分より高い場所にいる豪炎寺と同じところに居たくて、そんな嫉妬にも似た欲望があんな蜃気楼を出現させた。


たかが、そんなこと。


「ほんと、最悪な人間だな、俺」


+ + +


円盤の針は大きい数を示している。
ベッドに投げ出した躯は、動かすのもやっとな位心身ともに重苦しく、湿った長い髪と頬は、未だ完全に乾く気配は無く。
自分でもわからない。
何故こんなに瞳が揺れては何かを落として行くことが。
腕を、灯りもつけない天井へと昇らせる。
部屋に射し込む月の灯は少年を、温かくも冷たく照らしだす。
声は出ない。
深海に染まりし部屋を支配するのは静寂。
終いには躰を起こしても、止まりはしない。
涙が溢れる。
いやなのに、とまらない。
逆にとても悲しくなる。
そんな想いを引き摺りながら、部屋を出た。


上着を羽織、唯一何もかも忘れることができるランニングを始めた。
――なのに、
「っは、」
足が動かない。
鼓動は相変わらず速い。
火照った身体。
涙を浮かばせた瞳。
ベンチに背中を預け、足を腕の中に納め蹲り、小さくなる。
一時は止まっていたソレも再び雪崩れ始め、しかも止まっていた反動で先程よりも沢山ぼろぼろと留まることを知らない。
結忘れた髪が涙を受け止める。
「な、っん……で」
こんなにも、辛いんだろう。
涙が一粒一粒堕ちていけば、何故か胸の辺りをわしずかみされたような痛さが、強みを増す。
痛い、痛い、痛い、いたい、いたい、イたい、イタい、イタイ――なんだか、とてもいたい。けがを、びょうきになったわけじゃあ、ないのに。


指先を見れば、小刻みに震えて冷たい。
温かさが、愛しくなる。
夜風が濁った長い髪を巻き上げ、濡れた頬を冷たく突いた。
体温を逃さまいと更に、ぎゅっと縮こまる。
(――………寒い)
街灯に照らされ花が一輪揺れた頃合い。
「――風丸…?」
「―、っ!」
思わずそちらを見てしまった。
あるはずの無い、いや、ある方がおかしい声。
けれどもその存在は、確かに、明確にそこに居た。
立ったツンツン頭。私服であろう灰色と白のジャージ。
何時もでは滅多にしない腑抜けた顔。
――いや、当たり前か。そんないきなり知り合いが公園のベンチで泣き崩れてでもいたら、誰でも何事かと思うだろう。
………、というか待て。ということは、………最悪だ。見られた。
再び顔を腕の中に埋める。
先程よりも、強く腕を握りしめる。
「……どうしたんだ。こんな所で」
「……別に」
あまりにも無愛想な返事。しかし今の乏しい自分の思考回路ではそんな言の葉しか見つから無かった。
暫し、言の葉が堕ちて弾けるまで。
気付けば、温もりが、此所に在った。
「風邪引くぞ」
掛けられていたのはこの瞬間まで、彼の体温を保っていた上着で。
「…いい。こんなの、豪炎寺が寒いだけだろ」
痛みはこんな時にも増して行く。鼓動も、波立って行く。
羽織を豪炎寺の手前に差し出す。
「大丈夫だ。俺はお前が思っている程身体は弱く無い」
「いいから…っ!」
ただ、こんな二人きりが耐えられなくて、逃げ出したくて、強引に彼の胸元に押し付け、逃げるようにベンチから駆け出した。実際逃げているのだが。
しかし、豪炎寺がそんなことを許すハズが無かった。
瞬時腕を掴まれ引き寄せらる。
――前言撤回。寒いどころか暑い。
そんな風丸の中等知らず、豪炎寺はただ、抱き締めていた。
「今日は、どうしたんだ」
わからない。
「皆に嘘までついて」
いたい。いたい。
「何があった」
いってもきっと、わからない。
怖くて震える四肢。怖くて出ない言葉。
こんなにも、自分が苦しいのを、きっと豪炎寺は知らない。知らないからこうやって今抱き締められるんだ。
ほら、馬鹿みたいな女々しい思考。
気づいた瞬間心に矢が刺さる。
誰かが言っていた。相手の心がわかる機械が在れば、だなんて。
今考えればとんでもない事だ。
こんな心、正に彼にバレたら恥ずかしくて直ぐ様天に昇ってしまう。
「……俺、は…大丈夫、だから……っ」
「其れの何処が大丈夫なんだ」
呆れた声が降ってくる。
当たり前だろうけど。
と、別の場所で思考が弾けた。
「何で、豪炎寺こんなとこに……」
お前こそ、と跳ね返されるのがオチだろうが、一応気になった。
「――元々お前の家行くつもりだったんだ」
「…………………は」
唖然。
「え、あ、なん、」
「で、その途中公園にお前が居たから」
何で、其しか思え無かった。
友人と言えど、二人だけで出掛けたこと等無いし、最低でも円堂を絶対に介入させて三人で何かしら行動はしていた。
だから二人の絶対的な繋がりと言うのは、実を言えばサッカー位で。
そんな、豪炎寺が、たかが自分の事を気に掛けて家に行こうとする等――此こそ夢では無いのか。
「へぇ、お前でもそんな冗談言うのか」
くすり、と笑みを溢す。
けれどもそれは、何故か心を痛ましただけで。
「そう、思うのか」
「え?」
意外な応えに思わず腑抜けた声が落ちてしまった。
訳が判らずそのまますくんでいたら、抱き締められている腕が離れていった(認めたくないけれど、少し寂しいと思った自分が何処かの隅存在していた)。
兎に角、離れてくれただけでも楽になったのは無論で。
思わず胸を撫で下ろす。
しかし、それが仇になったのかもしれない。
再度、突然温もりが風丸に与えられた。
先程と同じ体と、もうひとつ。
「――んっ……!?」
条件反射で勢いに任せて目を瞑る。
触れあう唇からは、豪炎寺の体温。
思考回路に手段さえパンクし、全てエラーを発している。


「……」
未練がましく伸び光る細い糸。しかしそれは確かにふたりが繋がった証で。
「此が、冗談だとでも?」
ニヤリ、と悪戯を成功させたように笑う豪炎寺。
体温上昇。ヒートアップ。エラー、エラー。制御装置崩壊。崩壊。ホウカイ。ホウカイ。クズレテク。


「――な、」
一瞬何が起こったのか、解らなかった。
まだ温度が残っている唇が疼いている。
「顔、林檎みたいに真っ赤だぞ」
「………誰のせいだと思ってるんだ」
反論の言葉さえ、自分のとは思えない程か細い。
「そんな、想い人の様子がおかしければ誰でも気にするだろ」
――………へ、
改めて、明確に、くっきりと今の状況を理解した。
つまりは、豪炎寺は自分を好きで、自分は豪炎寺のことを――。

「!」
一瞬、彼の身体が跳ねたのを感じた。
けれど直ぐまた抱き締める力を強くした。
――そう、ただ其だけのこと。
俺は、この豪炎寺修也という男に惚れていたのだ。
気付くのが、怖くて、知らぬ間に自分で制御していただけ。
ただ、それだけ。
「――もう少し、このままで、いさせてくれ」
気付けば目尻から滴り堕ちる涙は温かかった。



(泡沫に流れた夢から溢れた福音)

*
昔のが出てきた豪風
確か書いてる時精神ごっそり削られたのは今では懐かしい思い出







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