「俺さ、あそこに行きたかったんだよな」
そう言って指差す彼。少し強い風が、髪を掻き分けた。
「あそこって、まさかあそこ?」
「そう、あそこ」
嘘だ、と思わず聞き返す。それでも彼はそうだと言い続け。冬の空が薄く、遠く淡く。
そんな彼の顔を見れば、なんとも清清しく。懐かしそうに向こうの景色を眺めている。その表情は懐かしさにひたり。つられて自分も向こう側を見る。幾何学的な線がちらりと見える。
「何、魔術でも習いたかったわけ?」
少し茶化すように言う。確かに、あそこは最先端政令特別地域だけれども。
「かもな」
それでも待っていたのは曖昧な回答。マフラーが乱れ躍る。
「そうじゃないのか?」
「それが、自分でもいまいちよくわかんねーんだ」
はは、おかしいだろ。高笑いをする目の前の友人。しろい息がふわり、宙に舞っては消えた。
そう言って給水塔から飛び降りる彼。少し、苛立ちを覚える脳内。
「じゃあ今からでも間に合わないだろ」
「そうだったらよかったんだけどなあ」
「なんだよ」
「いやさ、ちょっと」
また何時の間にか笑い出すひとり。白い花がコンクリートの隅小さく咲いている。太陽は、遠く。揺らぐ服の袖。
そしてまた向き合い。
それがなんとも、少し頭にきたので彼のそばまで足を進めた。
「お前がそんなことで諦める男だとは思わなんざ」
「諦めるも何もしょうがないだろー」
だって俺ら、死刑囚じゃないか。
そうやって、ほら。また君はわらいだした。
(ゆめをみる)