1day1sss | ナノ



不透明クリスタル

2011/07/25(Mon) 21:50






その光景に、思わず少女は唖然とした。


「………」


「………えーと、あの…ハイ…」


「あ、時雨さん。お邪魔してます」

高級そうなカーペット。その上に転がる身体がふたつ。それは男女のもので。絡まって、少年がベッドの端に背中を預けていた。
少し現状を整理する。
少女は、紫苑と呼ぶ人型の妖に頼まれ、渋々戸籍上義理の兄である彼の部屋まで来た。其処までは良かった。問題はその後。
ノックをしても、応答が無い。いつもならば、少しくらい反応が返ってくるはずであるのに。
と、少しごちゃがちゃ。それはとても小さく、常人ならば聞き取れ無いだろう物音。それでも少女にはそんなことは容易であった。現人神と謳われる少女には、それこそ息を吸っては吐く行為と並んで何の苦痛も無かった。
何か魔術やらの乱用でもしているのかと思ったが、彼は少なくともそんなことをしない。それに、魔力を少しも感じない。
そんな疑惑渦巻く少女回路。そして彼女はもういっそ、とその扉を開けたのであった。


「……な、なな何やって…っ!?」


というかいつの間に入って来たんだお前。驚きたじろぐ口先と違い、自分でも気持ち悪い程冷静な脳内。噛み合わぬふたつ。
そんな緑を余所に言う少女。クリーム色のショートヘアーが揺れた。


「時雨さんこそどうしたの?まるで"空いた口が塞がらないキリン"のような形相よ」


「それはこっちの台詞だ椎名……。何で、いつから、林の部屋に居る」


少し、あまり会話やらが慣れていない舌足らずの緑が椎名に問いただす。そうすれば、また口先を動かす彼女。


「ていうか人様の屋敷に勝手に入りこむなっ!」


「わたしはいいの。将来的にはどうせこの家に嫁ぐもの。――ね、りーん」


再び緑は言葉を失った。
確かに彼女は彼の――樹来林のれっきとした幼なじみである。だが、これとそれとは全く別物である。
隣に居る林が、鷹と虎の争いに巻き込まれまいと、這い出そうと試みる。しかし椎名がそれを許すはずも無く。呆気なく捕まるネズミ。


「その時は宜しくね。イ、モ、ウ、ト」


わざとらしく彼女が笑顔で、アクセントをつけながら弾ませた。
ぶちり。瞬間何かが音を立てて勢いよく切れた。
それをひとり感じとった林は、何とか宥めようとあれやこれやと口を開いた。


「、取り敢えず緑もゆかりも落ち着いて……。ほら、先ずはお茶でも飲んで、さ」


づかづか。そう言うも意味が無かったか、緑は歩いては近づいてき。対する椎名ゆかりも彼女を見据え。小さく火花が見える。


「―――」


と、立ち止まり声を押し留めた少女。ひとつ言葉を呑み込み、舌を切った。


ふと、目に映るふたり。
まるでその体制は、夜を玩ぶ男女のようで。
唾を呑む。


「――これだから、男は嫌いなんだ」


小さく、吐き出した言葉。きっと、普通の人間の聴力では聞き取れないであろう程の。
しかし林には少し、はっきりと耳に残った。彼女が意図的にそうしたのかは知らない。それでもただそれ以上に明確だったのは、林を捉えた彼女の瞳が、あの日以上に氷よりも冷たい黒曜石のようだったことであった。


そして長いその髪を翻し、少女は部屋を出て行った。




(トライアングラー)







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