「○月○日。朝の申し送りを始めます。まず501の〜」
ここは帝光総合病院。
ベッド数200床もある大病院だ。
俺と歩はそこの病院の整形外科、総合外科の病棟勤務看護師。
整形外科や総合外科は比較的日常生活動作ADLの介助が必要になる患者様も多いので男性看護師も多い。
同期で一緒にされた理由もその1つだ。
「今日はハーバード浴がありますので、久遠くんと結城くんは介助の方お願いします」
「分かりました」
今日は自分でお風呂に入れない患者様を大きなお風呂を使って入浴させる日。
これがまた体力勝負で特に男性看護師の人手が欲しい日だ。
俺たちは申し送りが終わった後ロッカールームへ向い白衣を脱いで半袖短パンに着替えた。
「ったく師長も人使い荒いよなぁ〜。ここぞという時ばかり頼ってきて」
「しょうがないさ、歩。今日はオペ出しとかバルーン交換とか色々あっちも大変なんだし」
グチグチと愚痴を言いながらロッカールームの扉を開けた。
その時だった。
「わっ」
「っ・・・すまなかったね。真白に歩」
歩が人にぶつかった。
赤い髪のこの病院で唯一俺たちのことを名前で呼ぶ先生。
「赤司先生・・・」
「この格好を見ると今日はハーバードか。患者さんが羨ましいね。こんな可愛い看護師さんにお風呂を入れてもらえるなんて」
赤司先生は歩の頬を撫でる。
見ただけでわかるほど鳥肌が立っている歩は赤司先生の手を離し俺の腕をつかみロッカールームを出て行く。
「前方不注意で申し訳ございませんでした。以後気をつけます」
ふてぶてしく歩がそう言うと駆け足で走った。
もちろん俺の腕を掴んだまま。
歩は赤司先生の事が嫌いだ。嫌い、というよりも苦手の方が語弊がないだろう。
理由を詳しくは分からないが出会った瞬間から嫌いらしい。
とりあえず今はハーバード浴の介助のことだけ考えよう。
体力が最後まで持ちますように、と祈りながら浴室へと急いだ。
「警戒心が強い猫たちだなぁ」
赤司は歩を掴んでいた手を舐め、2人が出て行った方を見つめる。
白衣の中に入ってるPHSで紫原に連絡した。
「敦。今日例のヤツ始めるよ」
『りょーかい』
簡易な連絡を終え赤司は怪しく笑った。
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