「あ、大坪くん。マフラーありがとうね。お礼言いたかったんだけど中々会えなくて」
「いえいえ。いつもお弁当作っていただけるだけで十分です。後その時に頂いたアップルパイ美味しかったです」
「あんなものでよければまた作ってあげるよ」
禍々しいオーラを大坪は感じ取りながらも水無月との会話を優先する。
あまり口には出さないものの大坪も水無月の事は好きなのだ。
久しぶりの会話と学校生活での恐怖とどちらを取ると言われたら前者の方をとってしまう。
「ふーん。マフラーあげて尚且つアップルパイもろたんや。ふぅん」
「しかも色もオレンジとはな。興味ない顔しててやる事大胆だな、お前」
「大坪さん・・・覚悟はいいですか?」
大坪の背後に3人は立ち拳を構える。
流石に前から見ていた水無月も不安になったのかアワアワと1人慌てる。
「さ、3人とも落ち着いて。ね?アップルパイなら今度3人にも焼いてくるよ」
「・・・本当やんな?」
「もちろん。次の時の会議でいい?いつ会えるか分からないし」
「1人1ホールですか?」
「おい!赤司それはダメだろ!」
「それで3人が大坪くんを苛めないなら・・・」
苛めるんだったら作らないからねと付け加えると3人はすぐさま自分の席に座りニコニコと笑う。
日向は寮へ帰ってから怒られる事覚悟でそんなやり取りを見守っていた。
大坪へ話した事も後悔したが、この事は相田から聞いてくるように命令されていたので命令遂行したと伝えればなんとかなるだろうと自分に言い聞かせて。
そのまま会議は上機嫌な笠松、今吉、赤司とじっと水無月を見つめる大坪。
そして終わってからの事で頭がいっぱいの日向、夕御飯の段取りを考えている水無月と中々カオスな感じで閉会した。
「はっあああ〜?1人1ホール水無月さんのアップルパイってどういう事よ!」
「だから水無月さんがあの3人を宥めるために言ったんだって言ってんだろ!」
「僕たちも1ホールなんて食べたことないのに・・・」
「いや、黒子は絶対食えないだろ」
「水無月さんのだったら食べれます」
会議から帰った後、誠凛寮では緊急会議が行われていた。
台所で聞こえる包丁の軽快な切る音や鍋のグツグツと煮込む音をBGMに。
正座する日向の周りを囲むように全員が立つ。
「やっぱ俺も行けばよかったな」
「いや木吉が行った所で何も変わらないと思うぞ」
「・・・」
「水戸部が日向だらしねーってさ」
日向はただただうなだれるばかりだった。
言われている事は正しいが、自分にはどうしようも出来ない事ばかりで反論する気すら起きない。
「皆〜。ご飯できたから手伝ってー!」
「はーい」
水無月の声が聞こえると途端に今までのピリピリとした空気が消え、バタバタと台所へと向かっていく。
日向もまた痺れる足を叱咤しながら台所へ向かうのだった。
1つでも多く美味しいご飯にありつくために。
(水無月さん大丈夫でしたか?)
(うん。全然。でも、遅くなってごめんね)
(水無月さんが帰ってきてくれるだけで全然いいぜ・・・です)
(ホーント。どこぞのヘタレがしっかりしてくれてればもうちょっと早かったのにね)
(だからすまんって!)
皆大好きなんです。
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