■廃棄くんの場合(火神)



部屋いっぱいに香ばしいパンの匂いが広がる。

皆食べて、食べてと手を伸ばす。

火神はどれが一番美味しそうなのか区別がつかなかった。


「(まあどれも一緒だろ)」


適当に選ぼうとした時に横にあった箱がガタガタと動く。

火神は好奇心に駆られその箱を開ける。


「おっ俺を食べろ!!」


開けると全身カビだらけのパンが飛び出してきた。


「お前は?」

「俺の名前は歩だ。最高の出来のパンだ」

「ふぅん・・・」


火神は歩の体をじっくりと見る。

当時はふっくらもともち今は空気に触れカチカチになってしまった体。

自分より一回りもふた回りも小さな体。

普通に考えてみれば美味しくなさそうなパンである。

しかし火神はそんなパンの肩に手を置く。


「いいよ。食ってやろうじゃん」

「えっ!本当か!?」


歩の顔はパァァァアっと明るくなる。

そんな顔を見て火神は唇を舌で舐める。

歩の方に近づき耳元でつぶやく。


「骨の髄まで食ってやろーじゃん」


ジジジジ

後ろのファスナーの開く音が聞こえる。

意気揚々としていた歩の顔がどんどんと真っ青になっていく。


「ぎゃああああお前何してんだよ!!」

「歩先輩が言ったんだろうが、です。俺を食べろって」

「俺はそう言う意味で言ったわけじゃねぇよ!物語上仕方がなくだ!ファスナー開けるな!脱がすなぁあああ」

「待てねー、ですよ。せっかく歩先輩が誘ってくれたのに」

「お、美味しいパンは沢山あるからそっちを食べたらいいんじゃないかなぁ?」

「歩先輩以外を食べたくねーっす。だから」


いただきます。

沢山のパンの居る前で廃棄される予定だったパンはアリスに美味しく食べられました。



(こんな物語があってたまるか!!)









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