緑間夢【幻奏歌/フェイP】
「僕ね。真のピアノの音好きなんだ」
「うっうるさいのだよ」
あの檻から俺は逃げた。
あてもなくふらふら歩いていたら大きなお屋敷から素敵なピアノの音が聞こえた。
男の人にしては綺麗で、しなやかな指から奏でられるメロディーは僕にとっては心地よいもので。
僕はじーっと窓からその様子を見ていた。
「何をしている?」
「わっお屋敷に勝手に入ってきてごめんなさい。あまりにもピアノの音が綺麗だから」
「ふん。外は寒いのだよ。入ってくるがいい」
「!」
男の人は真太郎と言った。
彼は1人でこの屋敷に済、ピアノを奏でているという。
僕は真にピアノを教わった。
口では怒ってばっかだけど態度や目線は優しいことを知っている。
1年づつ年老いていく真と、変わらない僕。
真は少しずつ体を動かすことができなくなっていった。
そしてある日、
「俺はもう長くないのだよ。だからお前に俺の音を授ける」
真は僕にピアノの音と大きな屋敷を授け、眠った。
僕は授かった音を毎日奏で続ける。
それが僕の存在そのものだから。
(僕が壊れた日、僕は夢を見た)
(真が僕の横にいて一緒にピアノを奏でている―――そんな夢)
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