学校へ登校してみるとバレンタイン並ではないが、お菓子の匂いが学校中に充満していた。
秋の味覚の1つであるさつまいもを使ったスイートポテトやハロウィンの代名詞であるかぼちゃを使ったお菓子。
普通のクッキーも今回は可愛らしくジャック・オ・ランタンの形やコウモリやお化けの形にくりぬいたものも。
手作りもあれば市販のもの。
女子は女子同士でお菓子の交換や素直になれない男子はここぞとばかりに女子に「トリックオアトリート!」と叫びお菓子をもらっていた。
もちろん俺のようにそっけなく飴玉を渡すやつも。
「あ、白ちーん。トリックオアトリートォ!」
ここにもハロウィンを心待ちにし、楽しんでいる巨体が1人。
廊下を歩いていると紫色の巨体、否紫原は猛スピードで走ってくる。
ヤツにとってこのイベントはバレンタインの次に好きだろうと思う。
学校にお菓子の匂いは充満するし、手を出せば美味しいお菓子が簡単に手に入る。
現にいつもやる気のない顔はどこへやら。
目を輝かして大きな手を俺の方に差し出している。
俺は1つため息を付いてカバンから飴を1つ取り出して紫原に渡す。
「えー!飴1個ぉ〜」
少ないよーと紫原は文句をたらす。
じゃあ返せよ、と言うと何も聞かなかったかのように口の中へ飴は消えていった。
「いーもん。いーもん。放課後もっと美味しいもの食べるから!」
だから今は飴で我慢する、と口をもごもご動かしながら紫原は俺に正面から抱きつく。
中学生男児平均レベルの俺がトトロみたいな大きな紫原に抱きつかれると俺の頭はちょうど胸の辺りで。
紫原の心臓がトクントクンと心地よく聞こえ、飴の桃の香りがふわっと鼻をくすぐる。
10月も終わりで肌寒くはなってきたが大の男が抱きついているといささか暑苦しい。
そして息苦しい。
どこか部活帰りに食べに行くんだろうか?そう疑問が浮かび、消える。
俺には関係ないことだし聞いても無駄だろう。
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