「こんばんは、おばさん。これ母さんから」
「あら〜。雪ちゃんのおはぎ!雪ちゃんにお礼言っておいてもらえるかしら。あ、俊は2階よ」
「はーい!」
玄関から燐と母さんの声が聞こえる。
雪さん、燐のお母さんのお手製のおはぎを持ってきたらしい。
バタバタと階段を上がる音が聞こえる。
俺は課題の手を止める。
「しゅーん!」
「はいはい。寒いから早くドア閉めてよ」
ぶーと項垂れるようにドアを閉めて、いそいそとこたつの中に入る燐。
外気が一瞬こたつの中に入ってきて一気に温度が下がる。
ピトリとつけられた燐の足は靴下越しながらも冷たいのが分かる。
「こたつっていいよねー。あったかくて眠くなる」
「あったかいのは分かるけど寝るなよ?寝たら風邪ひくし、引いたらカントクに怒られるぞ」
「分かってるよー」
いつの間に持ってきたのか1人みかんを剥き食べ始める燐。
相変わらずマイペースで俺は思わずため息をつく。
TVを勝手につけて見ている燐を放ったらかしにして俺は課題を進めた。
カリカリとペンを進める音とTVで芸人が喋っている声だけが部屋に響く。
あ、そのネタいいな。頂き。
チラリと燐の方を見るとまだみかんを食べていたのか、もぐもぐと口を動かしていた。
冬の寒さで少し荒れている唇。口角が切れ血がにじみ出ている。
その血に負けないぐらい赤く男の割にはふっくらしている唇。
その口から甘い声を発していたのはつい先日のこと。
って俺は何を考えているんだ。
顔を左右に振って再度ペンを握る。
また沈黙な時が流れてくれれば、と思った矢先だった。
「うわっ垂れた」
「・・・っ!?」
燐の口からみかんの果汁が垂れる。
それを赤い舌でペロリと舐めた。
どうしてそこまで俺を誘惑するんだ、燐!
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