「よぉ・・・水無月」

「っは、い・・・ざき」


WCの試合会場で会いたくもなかった男。

灰崎祥吾。

中学の無造作な髪はどこへやらドレッド頭になっていた。

いや、今はそんな事どうでもいい。

背中に冷や汗が伝うのが分かる。

息すらも満足にできない。

一瞬でも気を抜いてしまったら食われる。そんな気がして。


「おうおうそんなに睨まなくていいんじゃねーのか?折角の再開だ。もうちょっと喜べよ」

「断る。お前と再会するぐらいだったら死んだ方がマシだ」

「クックック。お前はそういうヤツだよなぁ〜。ああ言えばこう言うしこう言えばああ言う。見ているだけでも楽しいよ」

「そりゃどーも」


灰崎が1歩進めば俺は1歩下がる。

壁までの距離も計算に入れて下がっていく。

壁まであと20cmも満たなくなってきた頃。

灰崎は今までの均衡を破り勢いよく俺の肩を壁へ押し付けた。


「ぐぅっ!?」

「お前は計算高かったな。中学の頃も俺が何処にいるか計算して近寄らないようにしたり、どうしても近くに行かないといけない時は黄瀬や青峰と一緒にいたりしてなぁ」


お見通しなんだよ、お前の考えなんて。

拝崎はそう吐き捨てるかのように言って、不安で一杯の俺の眼球をネットリと舐める。


「っ離せ!!」

「やだね。偶然にしてもようやくのチャンスなんだ。せいぜい楽しんでいこうや。なぁ、水無月」


声とは裏腹に優しい手つきで頬を触る灰崎。

そのギャップに驚いて隙を見せたのがいけなかったのか、唇を奪われる。


「んっ・・むぅ・・・ふっ、あっ・・・」


角度を変え、灰崎の舌が侵入してくる。

その時に錠剤のようなものが口の中に入れられた。

吐き出そうと舌で押し返すが、灰崎は俺の鼻をつまんで息をできないようにする。

酸素を求め、俺はゴクリとその何か分からないものを飲み込んでしまった。


「何、飲ませやがった・・・」

「お前だって分かってんだろ?キモチヨクなる薬に決まってんじゃん。大丈夫だ。副作用は何もない一時的なもんだ」

「そういう問題じゃなっ!!」

「ガタガタうるせーんだよ。もうお前は俺のモンだ」









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