「帰ろう、燐」

「ん。待って」


全中3連覇と偉業を成し遂げた征たちも部活を引退した。

それでも俺と征の一緒の帰り道は変わらない。

ただ違うといえば、ずっと2人っきりで前は一緒に帰っていた黄瀬や紫原の顔を見なくなったという事だけ。

駄々こねてコンビニで買い食いをしたり、近くのショッピングモールで雑貨を見たり、女の子にいきなり声をかけられることはなくなった。

元々クラスも違う彼らと出会えたのは征がいたからであって、征がいなければ俺は出会うことすらできなかった。

そして、ある星が綺麗な夜の日。

受験のラインが分かる確認テストが近づいていた日の事だった。


「もうそろそろ受験だね・・・」

「そうだね。燐はどこに行くか決めた?」

「俺?俺征の一緒の学校でいいよ」


じゃあ一緒に受験勉強頑張ろうか、そんな返事を待っていたのに。

征はピタリと歩みを止めた。


「征?」

「燐。今日京都の洛山という所から推薦を貰ったんだ。だから、」


僕は京都に行くつもりでいるからきっと一緒の学校には行けない。

俺の中でその言葉が永遠リピートされる。

一緒に行けない?

誰と誰が?

俺と征が?

俺のポーカーフェイスが崩れているのが自分でもわかる。

分かるほど、俺の中で動揺している。


「燐・・・すまない」


征は立ち尽くす俺を置いて1人帰っていった。

その日生まれて初めて俺たちは一緒に家まで帰らなかった。



「燐ー!ご飯よー!」

「いらないっ・・・」


母さんの怒鳴り声が下から聞こえるが気にせず部屋に入って鍵を閉める。

制服が皺くちゃになるのもお構いなしにベッドに飛び込む。

目を閉じればさっきの光景が思い浮かぶ。


「征ぃ・・・」


勉強は頑張ればできる。

だけど、距離だけはどうにもできない。

父さんも母さんも1人息子の俺に甘いけど、流石に大きな理由もなしに京都の学校へは行かせてくれないだろう。

征が好きだから一緒に行きたい、だなんて言えない。

だけどできないんだよ。

だって俺と征は男同士なんだから。


「うっうぇぇぇぇ・・・」


真っ暗な部屋の中に俺の嗚咽だけが響いた。










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