Sweet magic/紫原
陽泉男子バスケ部の部員は目を疑った。
いつもどんな時もお菓子を手放さずに、どれだけ怒ってもお菓子を食べる事をやめないぐらいお菓子が大好きな紫原が練習中1度もお菓子を口にしていなかった。
しかも、同じクラスメイトに聞くと1日中お菓子を口にしていないと言う。
天変地異でも起きるのかと主将岡村は呟く。
こればかりは紫原をよく甘やかす氷室も理解できなかった。
チョコを渡しても要らないと首を振るばかり。
一体何が起きているんだ!
陽泉男子バスケ部はこの大事件のせいで今日1日練習に身が入らなかったという。
「んじゃーお先にバイバーイ」
あっという間に部活の時間が終了する。
紫原はいそいそと着替え部室を後にした。
帰る場所は自分の寮の部屋ではなく、恋人である水無月の部屋へ。
今日お菓子作りが苦手な水無月が自分のためにケーキを焼くと言う。
苦手な事に立ち向かう恋人の姿が可愛くて可愛くてしょうがない紫原。
水無月が頑張っているのに自分が頑張らないのはおかしいよね、と心に決めたのはつい今日の朝。
いつもであれば勉強道具などそっちのけで沢山のお菓子が詰め込まれているカバンの中は空っぽ。
ポケットの中にいつも入っている飴玉も今日は入っていない。
これも全て放課後の手作りケーキのためにである。
「燐ちーん!」
「ん?早かったじゃん。お帰り〜」
水無月の部屋へ入ると甘いお菓子の匂いで充満していた。
机にはまだデコレーションしていない半分に切ってあるスポンジケーキと綺麗にカットされている色とりどりのフルーツ。
そして純白の生クリーム、チョコレートのプレートが置かれてあった。
「うわぁ〜。見るからにこのケーキふわふわだね」
「おー。初めてにしちゃ上出来だろ?」
「うん!上出来上出来!」
敦が帰ってきてから一緒にデコレーションしようと思って、と水無月は洗い物を済ませて待っていた。
紫原は目をキラキラと輝かせて早く早く!と水無月を急かす。
「今日は俺なんにもお菓子食べずに待ってたんだから早く食べよう、燐ちん」
「お前がお菓子をぉ!?よく頑張ったな。じゃ、作るか」
「うん!」
座っても高い紫原の頭をひと撫でして2人はデコレーションを始める。
きめ細やかなフワフワのスポンジに白い生クリームを塗って、カラフルなフルーツを乗せる。
その上からまた生クリームを塗り、スポンジを重ね、表面をできるだけ綺麗に生クリームを塗っていく。
紫原も水無月もお菓子作りはしないので歪になるのはご愛嬌だ。
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