桃色飴玉/木月日


「水無月さん。これ、差し上げます」

「ありがとう、黒子くん。飴玉?」


黒子が水無月に渡したのは1粒の桃色の飴玉。

コロンと可愛い包装紙に包まれた飴玉は美味しそうだった。


「紫原くんからです。いつもお弁当を作ってくれてるからお礼だと」

「えっ。そうなの。お礼しなきゃね。明日お菓子作るから持って行ってくれる?伝書鳩みたいにして悪いんだけど」

「全然いいですよ。僕たちの分は・・・」

「もちろん作るさ」


その言葉に黒子は笑みを浮かべる。

黒子は正直この飴を渡したくはなかった。

何故かと言えば上記のような展開になるからだ。

水無月のお菓子も、嬉しそうに笑うその笑顔も全部自分たちのものに向けられればいいのに。

しかし今はその笑みはここには居ない紫原へと向いている。

それが黒子にとって面白くないのだ。所謂嫉妬だろう。


「黒子くん。ありがとうね。明日よろしく」

「はい」


水無月は水色の髪をクシャクシャに撫で回し、洗濯干し場の方へ向かった。

そんな水無月の姿を見えなくなるまで黒子はそこでじっと見続けた。


「(ん・・・桃味だ。おいしい)」


紫原から貰った1粒の飴玉を水無月は口で転がしながら太陽の匂いがするシーツをいそいそと取り込んでいった。



その後、夕食作りに片付けが終わり自室で日課の家計簿をつけているが今日か体がボーッとして電卓を叩く指にも力が入らない。

風邪でも引いたかなぁと呑気に考えて大広間に置いてある救急箱から薬を持ってこようと立ち上がった瞬間、衣服が擦れただけで甘い疼きが体に走った。


「っあ・・・」


自分の声に驚いた水無月は思わず自分の手で口を塞ぐ。

その甘い疼きが引き金となり体の奥底から何か疼き始めた。

熱い、熱い。体が熱い。

震える指で衣服を掴みできるだけ体を小さくする。

何か変な病気にでもかかったんだろうか。皆に伝染る病気なのか。

寮父である自分がそんな病気にかかるだなんて、と悔しいあまりにうっすら涙を浮かべる。


コンコン


「水無月さん?伊月ですけど入っていいですか?」

「い、伊月くん!?」









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