カントクに用事があるからと早めに上がらせてもらって母校の帝光へ向かう。
でも俺は肝心な事を忘れていた。
アイツは3年で部活を引退していた事に。
しかももう受験も推薦、学校のスカウトだから勉強だってしなくていい。
つまり学校にこんな遅くまで留まる理由がないのだ。
無駄足だった事に体育館隅で項垂れていると聞き覚えのある声が俺の名前を呼ぶ。
「水無月先輩ですか?」
「黒子じゃねーか。どうしたんだ。こんな時間に」
「どうしたはこっちのセリフです。先輩こそどうしたんですか?」
いやちょっと、と言葉を濁すと黒子は少し考えてああ。と勝手に自己解釈をする。
そして俺の腕をつかみ強引に引っ張っていく。
「えっちょっ黒子!?」
「こっちですよ。先輩」
あれよあれよと連れて行かれたのは3月に告白された場所の部室。
あれ以来行ってない場所だった。
トンと黒子に背中を押される。
「グッドラックです、水無月先輩」
「・・・サンキューな」
黒子と拳と拳を合わせて黒子が見えなくなるまで見送り、大きな深呼吸を1つついてノックをする。
「はい」
機械越しではない生のアイツの声が返ってくる。
心を固めドアを開ける。
久々に見たアイツ・・・赤司は部活を引退したはずなのにメニュー作りやら事務的書類をこなしていた。
「よっよぉ」
「燐・・・どうして・・・」
思わず声が震え、上がる。
でもできるだけ平常心でいれるようにと笑う。
赤司は目を見開き、今まで持っていた書類がバラバラと床に散らばった。
「誕生日おめでと。プレゼントどうしようかって思ったら本人に直接聞けってチームメイトに言われてな」
だから来たんだと素直に伝えると赤司は俺に抱きついてくる。
俺よりも頭1つ分小さな赤司の背中を抱きしめ返す。
前に抱きしめた時よりも小さくなっていた。
「ありがとう。燐に会えただけで僕は嬉しいよ」
「ん・・・にしてもお前引退して引き継ぎしたんだろ?なんでメニューとかしてんだ?」
「ああ。まだ新米の主将が頼りなくてね。僕が卒業してもそのまま使えるようにファイリングしてたんだよ。メニューとか事務的な事とか全部」
「そうか。お前が3年間近く主将やってたようなもんだったもんな」
赤司たちが入ってきたのが昨日のように思えるぐらい鮮明に覚えている。
赤、青、緑、紫、灰色と強烈な髪の色をしたヤツらがバスケ部の門を叩きあっという間に1軍のスタメンに入った。
赤司に関しては主将の座さえも奪い取りこうして引退するまで主将として居続けた。
強豪帝光中学男子バスケ部をこの小さな背中1つで背負っていた。
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