10月の後半にもなると日が暮れるのも早い。
俺と伊月先輩は暗闇の中寄り添いながら歩いていた。
「どうしたんだ、今日。らしくなかったな」
「・・・」
言えなかった。
先輩のことで頭が一杯になってただなんて。
そのせいで怪我もしてしまっただなんて。
無言でうつむいて歩く。横でため息をつく声が聞こえる。
「まあ燐がこうなってしまったのはなんとなく分かるし、その原因の大部分は俺のせいだってのも分かる」
「っじゃ・・・じゃなんで伊月先輩は言ってくれなかったんですかっ。俺ショックだったんですよ!?」
恋人の誕生日も知らないなんて、と小さく呟く。
2年生の先輩は知っていて俺は知らない。
1年早く生まれていれば俺も祝えたのに。
この1年がもどかしい。
「燐がここまでショックを受けてたなんて思わなくてね。それに特別祝われなくたってこうして燐と一緒にいるだけでも俺はいいんだ」
「伊月先輩がよくても俺はよくないです。先輩の欲しいものとか分からないし、火神みたいに料理も上手くないからご馳走も作れないし。でも初めて一緒に迎える誕生日だから祝いたくって」
最後の方の言葉はかすれかすれだった。
何もできない俺が情けない。
伊月先輩は無言で俺を後ろから抱きしめる。
同じ男だとは思えないぐらいいい香りがした。
「ちょっ先輩!ここ道の真ん中!」
誰もいないからいいもの道の真ん中で男同士が抱き合ってるだなんて世間一般では異常な光景だ。
この時ばかりは今が夕方でよかったって思う。
「燐がそう思ってくれるだけで俺は嬉しいよ。そんなに俺を祝いたいなら今日俺の家に泊まりにおいで?」
それから燐を頂戴?と先輩は言って俺の冷たい頬にそっとキスをする。
キスをされたところが熱い。
されたところからじわじわと全身に熱が伝わっていく、そんな感じがした。
「っ俺なんかでいいの?」
「もちろん。むしろ燐だからいいんだよ?」
その言葉がとてもむず痒くて、でも嬉しくて。
俺から抱きしめて、先輩の唇に軽くキスをする。
「じゃあプレゼントされます。で、でもその前にケーキ買って帰りましょう?ゲンタッキーでチキンでも買って普通にお祝いもしたいです」
「いいよ。チキンもキチンと買わなきゃね。はっキタコレ!」
「きてないですって」
主将にツッこみ方教わろうかなぁ、とか考えながら手を繋ぎゆっくり歩いていく。
ダジャレが好きな残念なイケメンで、でもとってもカッコいい先輩。
「し、俊・・・誕生日おめでとう!」
心の中でひっそり来年はちゃんとプレゼントを考えようと決めたのは内緒の話。
(とうとう燐が名前で呼んでくれた!)
(ううううるさい!今日だけ特別なんだからな!)
部内公認バカップル。
ぼーっとして部活に身が入らない事はなくなったけど、
腰痛で部活に出れない事が増えたそうです。
何はともあれ伊月先輩誕生日おめでとう!
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