優男は木吉さんと言うらしい。
今は足を怪我して入院中とのこと。
「暗闇で1人ポツンっているもんだからさ。思わず声をかけちゃったよ」
「そうですか。それより足、大丈夫なんですか?」
「ん・・・まあまあだな。手術も終わったし今リハビリ頑張ってるとこだ。そういう久遠はどうなんだ?」
「俺はただ意識を失ってただけでもう少しで退院できます」
ロビーで木吉さんに温かいココアを奢ってもらって飲む。
冷えた体に温かいココアが染み渡る。
「そっか。そりゃよかったじゃないか。元気なさそうにしてたから何かあったのかなって思ったけど」
俺の勘違いだな、と笑い木吉さんの大きな手が俺の頭に乗る。
兄貴といる時とは違う安心感。
この人なら今自分の中にあるモヤモヤしたものを消してくれる気がして。
俺は意を決して話し始めた。
「友人が今1人離れているんです。6人で仲が良かったのに1人だけ何か違和感を感じて離れてしまって。お互いがお互いをわかり合おうとはしていないようで。俺はただそれを見てるだけなのかな、って思って・・・」
「そうか。じゃあ久遠はどうしたい?」
「俺は6人で笑ってまたバスケしている姿が見たいです」
「もう決まってるじゃないか。お互いを引き合わせればいい。久遠が接着剤になればいいんじゃないかなぁ」
「接着剤ですか」
「そう。ここからは久遠が導き出さなきゃな」
木吉さんはココアを飲み干し立ち上がろうとした。
「木吉!なにお前病室抜け出してんだよダァホ!リハビリの先生怒ってっぞ」
「あっやっべ。忘れてた。日向ごめんな」
日向、と呼ばれる学ランを着た眼鏡の男の人は眉間にしわを寄せて木吉さんの元へやってくる。
しばらくガミガミと日向さんによる木吉さんの説教は続き、俺は帰るタイミングをすっかり逃してしまった。
ようやく説教が終了したらしく日向さんの口が閉じ、木吉さんは急いで何処かへ行ってしまった。
きっとリハビリに向かうのだろう。
「ったく・・・すまなかったな。帰れなかっただろ?」
「いいえ、別に構いません。貴方が木吉さんの事を思って言ってた訳ですから」
「アイツな。メンタル面強いけどたまにああなるんだよ。全てのことから逃げ出すんだ。気持ちは分からないでもねぇが俺はそんなアイツを許さない。俺や色んなヤツを引きずり込んだんだから最後まで責任はとらせる」
「責任?」
「ああ。誠凛っていう新設校でアイツはバスケ部を作った。俺は主将でアイツは設立者。設立者が逃げ出してどうするんだって話だ」
誠凛、
バスケ部、
設立・・・。
「日向さん。誠凛の事とかバスケ部の事とかもっと聞かせてください」
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