男は瞳に光がなく、虚ろな目で包丁をこちらに向ける。
「キセ・・・キ。お前らキセキの世代だろう?」
おぼつかない足取りでこちらへ向かう。
こいつ霊に取り付かれているんじゃないだろうか?
そうだとするとマズい。
精神攻撃(ブロウ)ができる兄貴がいれば気絶させられるが俺にはできない。
能力を使って動かなくさせてもいいがアイツらがいて使えない。
「青峰!黄瀬!黒子!紫原!こっち来い!」
「っス!」
俺はとりあえず自分の後ろへアイツらを寄せる。
でも青峰だけはその場を動かない。
「大輝!こっちへ来るんだ」
「うるせぇ。俺に指図すんな!」
赤司の命令も青峰は言う事を聞かない。
青峰は男を挑発するように笑い、公園の方へ走る。
男はそんな青峰の挑発に乗り後を追った。
「あんのバカ野郎・・・!お前らは逃げろ。俺はアイツを引っ張ってくる」
「真白無茶だ。あの男は正気じゃない。警察に通報するのが第一優先だ」
「赤司の言うとおりなのだよ。お前らしくないぞ」
「この件は警察は宛にならない。だから逃げろっ」
赤司と緑間の止める手を断ち切り俺は公園へ走る。
「青峰!」
「久遠。お前はすっこんでろよっ」
「キセキ・・・キセキ・・・青峰ぇぇぇぇ!」
青峰の肩に包丁がかすめる。
服が切れる程度で怪我はしていないようだ。
「青峰!逃げろ!」
「久遠こそ逃げろよ。これは俺たちに売られた喧嘩だ」
「そういう問題じゃない!」
青峰は俺の声を聞かずに男の方へ向かう。
男もまた包丁を握りしめ戦闘体制に入る。
アイツが言う事聞かないならただ1つ。青峰と男が接触する前に俺がやるしかない。
懐に隠してある棒を扇へと変形(ドミニオン)させる。
「おいお前。青峰とやる前に俺とやろうぜ」
「おおおおおおおお」
男の標的が青峰から俺に変わる。
包丁が俺の頬ギリギリを抜ける。
扇を男の右手に思いっきりぶつけて包丁を落とさせる。
包丁が地面に落ちたことを確認し、そのまま右手を掴み背負い投げをする。
「ぐっ・・・」
「っは。アイツらに手を出すな。俺が許さない」
包丁を探そうとする右手を踏みつけ包丁を回収する。
「(兄貴、○○公園で霊に取り付かれている男性がいる。来れたら来て)」
「(わかった。今群寺と近くにいるからすぐ向かう)」
声(テレパシー)で兄貴に連絡し、青峰の方へ向かい胸元を掴み頬を殴る。
「ばか野郎!大事な大会前だってのに何してんだ!」
「ってーな。殴ることはないだろうが」
「そういう問題じゃない。お前がさっきしようとしたことは危ない事なんだぞ!」
「でもそれは真白も言えたことじゃないか」
俺たちの間に入るように赤司たちがやってくる。
青峰の胸元を離し背を向けた。
「そうっスよ!久遠がアイツに立ち向かう時俺ハラハラしたんスから!」
「誉めるべきではない事なのだよ。やはり警察に任すべきだった」
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