屋上を出て教室に向かおうとしていた。
その時だった。
「キャー黄瀬くんじゃない!」
「本当だ。黄瀬くんだわ!」
「隣にいるのって冷血の久遠くんじゃない?」
「えっヤクザでヤバイ薬売ってるって噂の?」
黄瀬宛の黄色い悲鳴。
そして俺を見るやいなや怖々とヒソヒソ話を始める。
これが俺と黄瀬の差。
怪物(モンスター)とイケメンモデルの差。
俺はこれを承知の上で黄瀬や青峰と付き合っているが、黄瀬たちはどう思っているかはわからない。
ちらりと黄瀬の顔を見るとなんでもないような顔。
俺の手をぎゅっと握りしめて早足で女子の群れを通り抜ける。
「ばーか」
黄瀬に聞こえないように小さく呟く。
なんでもないような顔を頑張ってしやがって。
下唇をキュっと噛み締めて感情を押し殺すぐらいなら、その手を離せばいいのに。
ガラガラ
もう着替え終わって外へ出ていったのか誰もいない教室。
俺は机にかかってる体操着の入った袋を机の上に置いて上着を椅子にかける。
「っなんで!」
黄瀬は大声を荒げる。
俺はそんな黄瀬を横目に着替え始める。
「久遠っ!」
グイッ
肩を引っ張られ黄瀬の方に向かされる。
黄瀬はモデルの整った顔を涙と鼻水でグシャグシャにして俺を見、肩に手をかける。
「どうしていつもいつも平気な顔をしてられるっスか。あんな事言われて、どうして、どうして・・・」
「どうしてって言われても慣れたとしか言いようがない」
そう。慣れ。
兄貴が能力を目覚めたのと一緒に俺も目覚めた。
以前から子供らしくない、と言われていた俺はもっと子供じゃなくなった。
いつ怪物(モンスター)になってもおかしくない俺たち超能力者。
でも、きっとすでに俺は怪物(モンスター)なのだろう。
だって黄瀬がこんなに俺のことで泣いているのに俺はなんとも思わない、思えない。
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