しばらくすると保健室のベッドのカーテンがシャッと音を立てて開かれた。
「あら、黒子くん。目覚めたのね?」
「ええ・・・なぜ僕はここで寝ていたのでしょうか」
「貴方図書室の閉館時間になっても起きないからって久遠くんがここまで運んできたのよ」
保健室の先生はクスクス笑い戸棚から鏡とクシを出して黒子に渡す。
たった数十分しか寝ていないはずの黒子の頭は酷いことになっていて、「すみません」と申し訳なさそうに借りて寝癖を直した。
悪戦苦闘するものの普段の髪型に戻った黒子は俺の姿を確認するとこちらへやってきた。
「久遠くん、すみません。どうやらここまで運んでもらったようで」
「ん?ああ。かまわない。気持ちよさそうに寝てたから起こすの悪いだろうと思っただけだし」
スラスラとでてくる嘘に俺は苦笑い。
仕方がないとは言え身近な人間に使うのは辛いものだったりする。
「さて。帰るか」
「ええ。そうしましょう」
帰り道が同じ方向だという事が発覚し、途中まで一緒に帰る。
もともと俺も黒子もしゃべらない方の人間だから会話はあまりなく静かに足音のみが真っ暗な空に響く。
「なあ、黒子。青峰や黄瀬って部活ではどうなんだ?」
ちょっとした疑問。
青峰は基本授業はサボるか寝てて、黄瀬は女の子に囲まれて身動きができない。
そんな2人が部活でレギュラーと聞いたときには驚いた。
「そうですね・・・黄瀬くんは最近始めたばっかりで青峰くんに近づこうと必死に練習してる、というところでしょうか」
「あいつらがねぇ」
「ええ。2人共バスケ大好きですから」
最近は休憩時間によく久遠くんの話がでるんですよ、と黒子はいう。
どうやらまだ俺の名前の一人歩きは止まっていないようだ。
「そうだ、久遠くんのことを真白くんとお呼びしても?」
「別に構わない。っと俺用事があるからここまでで」
交差点で止まる。群寺さんから支部に寄るよう言われたから行かなければいけない。
「そうですか。それじゃあ真白くん。また明日」
黒子は俺に向かって手を振る。
「ああ。また明日」
俺も黒子に釣られて手を振る。
黒子が見えなくなるまで俺はその場で立ち止まり、見えなくなったのを確認して支部へと歩き始めた。
(忘れていてよかった)
(また、明日か)
(むず痒いその言葉をそっと心の中に隠す)
キセキとの出会い編終了。
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