ピンクに染まる

放課後の教室にシンナーのような刺激臭。
クラスメイトの玲央ちゃんがマニキュアの小さい筆を慎重に滑らせていた。整えられた爪に薄ピンクが広がる。

「玲央ちゃんって器用だよね」

「ふふ、ありがとう」

嬉しそうに笑う玲央ちゃんは本当に可愛い。だけど、残念ながら「彼」は男の子である。玲央ちゃんは、中性的な顔立ちと名前だけど、残念ながら男の子である。大事なので二回言っておく。

「玲央ちゃんの女子力が高い」

「なに言ってるのよ、あなたが女の子に生まれた時点で女子力高いわよ」

呆れたように呟く玲央ちゃんは、慣れた手つきで爪を薄ピンクに染めていく。最後の一筆を滑らせれば 、全ての爪は薄ピンクになっていた。

「できた」

ふぅーと爪に息を吹きかけると、シンナーの様な刺激臭が鼻腔に広がる。

「私も深爪じゃなかったら、玲央ちゃんみたいにマニキュア塗りたいな」

玲央ちゃんの指先と私の指先を比べる。私は小さいときから爪をかじるのが癖で、気がついたら歪な深爪になっていた。綺麗に揃えられた爪と歪な深爪。玲央ちゃんの指先は男子特有のゴツゴツした感じじゃなくて、スラリと細くて女性らしい。悔しいけど、本当に綺麗だ。

「なまえちゃんも塗ればいいじゃない」

「えー、いいよー。私、深爪だから似合わないよ」

「いいから」

玲央ちゃんは私の右手を掴むと、パンパンに膨れたポーチから可愛いらしいボトルを取り出して、片手で器用に蓋を開けた。キツい刺激臭で、マニキュアだと気がついた。「動かないでね」と玲央ちゃんは、念を押すと、私の爪に筆を滑らせた。私の歪な爪は淡いピンクに染まる。

「はい、次は左手」

左手を差し出すと、また筆を滑らせた。こうして私の両の指先は淡いピンクになった。

「はい、完成」

玲央ちゃんは、ポーチからトップコートを出して「塗る?」と聞いてきたが、私は首を横に振った。

「玲央ちゃん、ありがとう」

お礼を言うと、玲央ちゃんは柔らかく笑った。玲央ちゃんのお陰で、この歪な指先が愛おしく思えた。

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