「おい、聞いてんのかよ」
スパーン。
宮地は丸めたプリントで私の頭を容赦なく殴った。
「今ので覚えた事忘れた」
ちょっと腹が立って、宮地を挑発するように言うと、今度は丸めたプリントで頬を殴った。いや、顔もやめてください。涙目で宮地を睨むと睨み返され、もう逆らうことをやめることにした。
「こっちは、お前のために費やす時間はねーの。オラ、シャーペンを持て!!」
と怒鳴られ、シャーペンを掴んだ。そう、私の最大の敵はこの暴力男じゃなくて、この机の上に重ねられた英語のプリントだ。
今、私は大変緊迫とした状態である。
成績が悪すぎて、卒業出来ないかもしれない。そう言われたのは昨日の進路相談。切羽詰まった私は、先生に拝み倒すと「仕方ない」と、言って大量の英語のプリントを持ってきたのが今日。「来週までには終わらせてね」そう言った先生の表情は、本気と書いてマジだった。与えられたラストチャンスだったが、英語がチンプンカンプンな私は、ま――――――――ったく解けない。先生にまた拝み倒すと、丁度、成績優秀者の宮地が近くにいたので、先生は「宮地、今日からみょうじの先生になってくれ」と言った。対する宮地は、一瞬面倒そうな顔をしたが、真っ黒な笑みで了承した。
「オイお前、その文法さっき教えただろ!」
スパーン
「その単語はeじゃないaだ!!」
スパーン
「違うって言ってるだろ!」
スパーン
宮地は間違える度に鉄拳制裁を下す。私を殴るために丸めたノートはボロボロだった。(しかもノートの表紙にはみょうじ殴る用って書いてあるし!)
でも、お陰であんなに積まれていたプリントは残りわずかになった。
「はい、次。ここの長文問題な」
宮地に差し出されたプリントを見て絶望した。なんだよこれは。まるまる一枚が英文じゃないか。宮地を見ると真っ黒い笑みを浮かべていた。今すぐ読めと無言の圧力を感じた。
「宮地、これって何て読むの?」
「ああ、これか?トラディション」
「ありがとう」
宮地に分からない単語を聞きながら、やっとの思いで長文を読んだ。初めて宮地に殴られずに文章を読みきったぞ…。宮地にドヤ顔したら、いつもなら「調子乗んな」と言って鉄拳制裁を下す筈なのに、いつもの真っ黒い笑みじゃなくて、凄い爽やかに笑って「お疲れ」と言って、丸めたノートじゃなくて、宮地の大きな手が私の頭を撫でた。突然の事で呆気にとると、宮地が「アホが余計アホに見える」と言って、そっぽ向いた。