高校生の時の部活の話

王子様は悩ましげに胸元を握りしめ、真剣な顔で見つめてくる。
そして、右手を伸ばして低音だけど心地のいい声で囁く。

「私は、姫を愛しています」

私は、その手をつかむことが出来ずただ、彼を見つめることしか出来なかった。





「はい、一旦休憩」

張り詰めていた緊張は、現場監督の一声により元の日常へ戻っていく。
私は一息入れると、未だに真剣な表情で左手を伸ばす王子様…もとい、カラ松は、持て余した右手で自分の前髪を撫でると、「フフ、俺の演技が(こっから先はイタ過ぎて聞いていない)」と、呟いていた。

定期公演に向けて中世を舞台にした演劇の稽古中だった。

今回の演劇はありきたりな話で、敵対する国の王子と姫が惹かれ合うがそれに反比例するように国の情勢が悪くなり、姫が政略結婚で別の国の王子と結婚する前に、駆け落ちをしてめでたしめでたし。
カラ松は主役の王子様、私はヒロインの………姫に使える女中役である。
姫は、演劇部でも一番の可愛い子。
姫はカラ松に駆け寄ると、台本を見せ合いっこして演技について話をしている。
普段、イタイ発言が多い中二病末期の発言は鳴りを潜め、真面目に演技の話をするカラ松はカッコイイのに…。

私は姫の女中として結婚する姫の元まで王子様を誘導する役。セリフ量も圧倒的に少ないがモブ役とは言えない役である。

「みょうじ、あのさぁ…」

カラ松は台本を捲りながら私の方へ来ると、右手を伸ばして、「姫を愛しています」とドヤ顔で言われて私は空っぽのカラ松の頭を台本で叩いた。

「相手違うから」

そう言うと、眉を下げてへらっと笑った。
演劇中の真剣な顔も好きだけど、やっぱりこの柔らかく笑う表情も好き…かもしれない。






「姫に触るな!」

舞台は佳境に迫っていた。
駆け落ちをしようと王子と姫は城の門を抜けたところで、姫の国の兵に囲まれてしまい姫が連れ去られてしまった。
役に入りきっているカラ松の悲痛な叫びに、会場からすすり泣く声が聞こえる。

あ、まもなく私の出番だ。
台本を見返す。私のお役は本当に一瞬。だけど割と重要。
カラ松の前に立って、「王子よ、なんと情けない」と言って、姫を連れされた王子を鼓舞して…。

「みょうじ、出番」

イメトレしていたら、友達に肩を叩かれステージに踏み出した。



「王子…なんと情けない!それでも姫を愛しているのか」

ステージはカラ松が作り出したのか、緊張で張り詰めていた。
観客が私の演技を固唾を呑んでいて、練習と違う雰囲気に飲まれそうだった。

「私は…」

「あなたが愛しているのは…」

「私は、あなたを愛しています」

「は?」

静まり返った会場がざわつき始めた。
あれ?話なんか違くないか?姫は?とヒソヒソと観客の声と演出担当のため息が聞こえる。

こいつ……終盤にして セ リ フ 間 違 え た ぞ !

「王子、あなたが愛しているのはたった一人の姫ではないのか!」

カラ松…ああ、このクソ王子の胸元を掴むと、小声で「姫ですと言え」と伝えると、一瞬涙目になっていたクソ王子は、「ああ!」と、感嘆の声をあげると胸元を掴んでいた手を握りしめ、ジッと私を見つめた。

「君です」

「は?」

「私は君が好きです」

「は?」

もう、収集がつかないレベルまで進んでしまった。
姫役の子が酷い顔でこっちを睨んでいた。私は悪くない!この場をまとめようとしたけど軌道修正できなかった。ああああ!このクソ王子!!

「貴女は私のことをどう思いますか」

何故、照れたし!胸元を掴んでいた手を解くと、自身の胸元を悩ましげに握りしめると、真剣な表情で私を見つめた。
そして、右手を伸ばして……。

「私は貴女を愛しています」

私はその手を掴み、小さく頷いた。
カラ松は私の腰に手を回し、所謂お姫様抱っこで抱き上げた。
そして、観客に向かって「僕達幸せになります!」と宣言すると、私を抱えたまま舞台袖を駆け出した。



―――――こうして王子様は女中と幸せになりました。




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