下駄箱を開けると、ピンクが大量に雪崩れた。ピンクの正体は可愛らしくラッピングされたお菓子の数々。よく、あんな狭い下駄箱の中に詰まっていたなと関心しつつ、奥に追いやられたシューズを取り出して、俺は今日が2月14日なのを思い出した。
「宮地おはよう。今年も大漁だね。イケメン爆発しろ」
クラスメイトのなまえは、足元に散らばるピンクの数々を見て、俺に向かって中指を立てたが、俺はその指を掴むと「うるせぇ、折るぞ」と凄んだ。
「宮地、あんた本当に罪な男だね」
なまえは俺の机の有り様を見て、ため息を吐いた。机の上にもピンクの山が出来ていて、机の中もピンク詰まっていた。
「直接渡してこいよ…」
「宮地が怖いからだよ」
「ハハッ、チョコ投げるぞ」
「人から貰ったのを投げるとか宮地くん最低」
「…冗談だ」
カバンの中に入ってた教科書やノートの代わりに大量のピンクが詰められていく。今日は、置き勉するしかねぇな。と、鞄に詰められた大量のピンクにため息を吐いた。
部活を引退して、進学先も特に苦労せずに決めた俺は、卒業までどう過ごすか悩む位、暇をもて余していた。OBとしてバスケ部に顔を出したくても、在校生は期末テスト前で部活は停止中。仕方ないから、今日は家に帰って大好きなアイドルのDVDを見てサイリウム振るか…。下駄箱を開けると、また雪崩が起きて「直接俺に渡せよ!喜ぶから!」と心のなかで叫んだ。
「お、宮地。帰んのー?」
暢気にまいう棒を食べているなまえと遭遇した。俺は「あー」と軽く返すと、俺の腕を掴むと、笑顔でこう言った。
「一緒に帰ろう」
「グ、リ、コ」
どう言うことか、なまえと帰りながらグリコをしている。グリコを知らないよい子に遊び方を説明すると、ジャンケンをして勝った奴が進めるという単純明快なゲームだ。グーならグリコと3歩、パーならパイナップルと6歩、チョキならチョコレイトと6歩。学校の校門前からグリコが始まったのは、なまえが「グリコしようか!」と言い出したから。俺は、暇を持て余していたから承諾した。
「お前、弱いな」
「手を抜け宮地いいいいいい!」
俺は連勝して、持ち前の足の長さでなまえと距離がどんどん開く。
「「ジャンケン、ポン」」
「グ、リ、コ」
こうしてまた地道に3歩進む。マジでなまえジャンケン弱すぎだろ…。でも、さっきからなまえはチョキしか出さない。だから俺はグーをだす。でもそろそろなまえの手が判別できなくなる。
「「ジャンケン、ポン」」
「やったー!やっと勝ったー!」
「早くしろ」
「ち、よ、こ、れ、い、と」
今度はなまえが連勝して俺との距離を詰める。やっぱり、なまえはチョキしか出さない。こいつ、チョキ以外出すと死ぬ呪いでもかけられてるのか?
「ち、よ、こ、れ、い、と」
なまえは、俺の一歩後ろまで近づいた。そろそろ、グーを出すかと思っていたら、なまえが突然カバンをガサゴソ漁り始めた。
「はい、宮地。ハッピーバレンタイン」
差し出されたのは見飽きたピンクでラッピングされたヤツ。中を開けると少し焦げかけてるクッキーが入っていた。
「なまえ…?」
「宮地が好きです。付き合ってください」
顔が真っ赤のなまえを見て、顔が熱くなるのを感じながら、俺は二つ返事で承諾した。
「グリコのゴールって何処だろ」
そう問いかけてきたなまえを俺はなにも言わず抱き締めた。
(ゴールは此処)