『俺はお前を赦さないのだよ』

『なまえちゃんなんかきらいなのだよ』

真っ暗な空間に、私と男の子がふたりっきりだった。鮮やかな緑色の髪と瞳の男の子が泣きながら私を批難していた。私は、その男の子の頭を撫でようと手を伸ばしたら、腕を掴まれた。顔をあげると、緑間が私を見つめていた。そして、呟いた。

『俺はお前を赦さないのだよ』

呆然としている私を緑間は射抜くように睨むと、泡のように消えた。そして、眩い光に目を閉じた。



目を開けると、見慣れた自室の天井だった。枕元にある携帯で時間を確認すると朝の5時前だった。なんて目覚めの悪い朝だろう。訳のわからない夢を見るし、その夢には緑間が出演したし。結局、緑間は体育館を飛び出したまま戻っては来なかった。カバンや私物は置きっぱなしだったから戻ってくると思っていたけど、中谷監督が来て緑間の荷物を持って行った。確かに、言い方はキツかったかもしれないけど、あそこまで怯えるか?緑間の反応に違和感があったけど、心当たりがないから頭が痛くなるだけだった。







ジャージに着替えて体育館に入ると、宮地先輩が練習していた。ああ、私の濁った気分が浄化される。

「宮地先輩、おはようございます」

「おう」

レイアップシュートを決めた宮地先輩に心の中で盛大な拍手を送りつつ、柔軟剤を使ってふかふかのタオルを渡した。ああ、私は生まれ変わったら宮地先輩のタオルになりたい。宮地先輩にもふもふされたい。

「みょうじ、何ニヤニヤしてんだよ」

「いえ、何でもないです!」

タオルで顔を隠し、だらしなく緩む口元を締めようと頑張るけど、表情筋は全く仕事してくれない。宮地さんにからかわれていると、体育館のドアが開く音がした。

「おはようございます」

タオルで顔を隠しているから、確認ができないけど、声で緑間と解ると表情筋は死んだように固まった。幸せな気分が一気に冷めてしまった。

「緑間おはよう」

タオルから顔を上げて挨拶するが、緑間は眼中にないのか私の前を通り過ぎると、倉庫に入っていった。

「感じ悪」

宮地さんは、吐き捨てるように言うと私の頭に手を軽く置いた。

「気にすんな。お前はなんも悪くねぇよ」

その言葉だけで私は幸せだった。本当に宮地先輩大好き!私は、コートに戻る宮地先輩の背中を見送ると、今日の練習メニューを確認するために部室に戻った。



「私、インターハイ予選前に引退するから」

突然の根岸先輩の発言に持っていた洗濯カゴを落としてしまった。折角洗濯したタオルは地面に急降下していった。

「え、なんでですか?」

「前々から決めてたんだ」

「え?何か悩みでもあるんですか?」

「うーん、悩みは出来の悪い後輩にどう引き継ごうかなって」

「ひどいです!仕事ちゃんと覚えましたよ!」

「嘘、受験するの。私」

地面に落ちた洗濯物を拾いながら、根岸先輩は説明してくれた。受験のタメでもあるけど、緑間の加入で辞めてしまった元正SGの先輩と実は付き合っていたらしく、その先輩が精神的に弱っているから、それを支えたいと。笑顔でそう言う根岸先輩を見て、中谷監督が言っていた「緑間中心のチーム」に疑問が生まれた。なんと言うか、緑間中心のチームと言うか、緑間のためのチームになっている感じがした。やっぱり、少しずつ変わっていた。



練習終了後、根岸先輩に残りの雑務をお願いして校門前で緑間を待ち伏せしていた。数分後、帝光中の白いブレザーを着た緑間がやって来た。緑間は校門前で腕を組む私を見て、「待ち伏せとか悪趣味ですね」と言った。

「聞きたいことあるんだけど、ちょっと時間ちょうだい」

「俺はあなたに話すことなど何もない」

「ちょっと、待ちなさいよ!…真ちゃん」

咄嗟に緑間を馴れ馴れしく読んでしまって、両手で口を塞いだ。目を見開いて私を見つめる緑間は、「なまえちゃん」と小さく呟いた。

思い出してしまった。記憶の奥底に封印した私の黒歴史を。

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